キン、と剣を弾く音。
次いで響いたのは、悲鳴に近い呼び声。
駆け寄って、抱き寄せて、大丈夫かと問い質して。
細い腕から流れる赤が、視界を塗り潰すかのようだった。
─救世主の剣─
くるくると、白が肌を覆っていく。
鼻を突く消毒薬の臭いと、乾き始めた血のそれが、未だ周囲に漂って。
自分で出来るから大丈夫だ、なんて頑なに拒んではいたけれど、
ぱっくり開いた傷口からは相当な量の血が流れていたし、
おまけに利き腕だったから。
大丈夫な訳ないだろうと、強引に手当てをさせてもらってる。
傷をつけたのは、他ならぬ俺自身だし。
「ちょっとここ押さえてて」
「……ん」
「痛むか?」
「へーき」
しゃくん、と余分な包帯を切る。
このまましっかり留めてやれば、解ける心配もないだろう。
ハイ、オシマイ、と道具を片付けながら、腕を摩る花白に問うた。
「花白」
「なに?」
痛むのか、ほんの僅かに顔を顰めて。
それでも普段と変わらぬ様子で小さく首を傾げてみせる。
「なんであの時、剣を退いた?」
「……さあ?」
フイ、と顔を背けてしまう。
その直前、花白の表情が曇ったのは、見間違いなんかじゃないはずだ。
「さあ、じゃないだろ?」
大袈裟な溜息をひとつ。
花白の肩がピクリと揺れた。
ちらちらと窺う紅い眸に、不安げな色が滲んでは消える。
「心配し過ぎなんだよ、おまえは」
「っうわ……!」
ぐしゃぐしゃと髪を掻き乱して。
何するんだよ! と怒鳴る花白に、とびっきりの笑顔をくれてやる。
「それ治ったら、また勝負しような。下手な気ィ回したら怒るぞ、ホント」
キョトンと目を丸くして、泣きそうな顔で俯いて。
優しい優しい不器用な子供。
おまえが傷付く方が悲しいって、痛いんだって、知らないだろ?
「俺は充分強いから。だから安心してかかって来いよ」
膝に顔を埋めてしまったから、表情までは窺えない。
けれど小さく頷いたのが、なんとなくだけど伝わった。
ひとまわり小さな肩を抱き寄せて、よしよし、なんて頭を撫でて。
ようやく最後に小さな声で、ごめんな、って呟いた。
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