嫌いにならないで、と声高に叫ぶのは簡単だ。
けれど、好きにならないで、なんて。
あまりに悲しすぎて、笑えてくる。
─愛だなんて─
「花白のこと、好きだぜ?」
「っ、な……!」
いきなり何を言い出すんだ!
そう叫んで、花白は頬を朱に染めた。
常日頃から突拍子もないことを口にする相手だけれど、
唐突に言われる自分の身にもなってほしい。
頼んだところで、聞き入れてくれるとは思えないが。
「だけどさ」
「今度は何だよ」
次は何を口走るのかと身構えながら問いを投げる。
それを見て、月白は笑った。
とても綺麗な満面の笑み。けれど、どこか歪な笑顔。
「俺のこと、好きになっちゃ駄目だからな?」
「……は?」
頭でも打ったの、あんた。
呆れ顔、溜息交じりの呟き。
馬鹿馬鹿しいと手を振って、踵を返した花白の背に、
向けられた目は悲しげで。
「サヨナラする時、困るだろ?」
出来ることなら知らずにいてほしい。
大切な人を失う、哀しみなんて。
花白は寂しがりだから、きっと泣いてしまうから。
「かなしいのは、俺一人で充分だよ」
見えない背中、届くはずのない声。
会いたくても会えないなんて、そんな思い、させたくないから。
自分と、幼馴染のように。
願ったところで、叶うとは限らないのだけれど。
「……もう遅いよ」
零れた声、隠れた背中。
身体を預けた柱に沿って、ずるずるとその場にしゃがみこむ。
傍にいるのがあたりまえで、姿が見えなければ静か過ぎると思うくらいに。
「卑怯だ、そんなの」
一方的に好きだ好きだと、言っておきながら「好きになるな」なんて。
何だかんだと理由を付けて、ちょっかい出してきたのは月白の方なのに。
「さよならなんて、するもんか」
抱えた膝に顔を埋める。
今のうちに、泣いてしまいたかった。
誰に会うよりも前に、普段通りの顔に戻れるように。
あいつに、泣いたことを悟られないように。
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