人の身体を抱き枕にして、すやすやと間抜け面を晒して。
途方もなく安らかな寝顔を見せられたら、苛立ちを通り越して溜息が零れた。
腰に回された腕は、抜け出そうと思えばきっと簡単で。
けれど、そんな気すら、起こらなかった。










─確かな体温─










見れば見るほど、似ていないな、と思う。
歳が違う、背丈が違う。
胡散臭い笑い方も、人を小馬鹿にしたような話し方も。
似ている部分の方が少ないじゃないかと、そう思うことも少なくない。

もっとも、何から何までそっくりだったとしたら、
それはそれで気味が悪くて嫌なのだけれど。

「……あったかい……」

触れ合っている部分、布地越しにじわじわと伝わる、熱。
普段は体温が高いことを馬鹿にして、子供だ小動物だと騒ぎ立てるくせに。
自分だって、子供体温じゃないか。
寝ているからだって言い返されたら、そこまでだけど。

顔に掛かる髪を、そっと指で摘んで払ってやる。
さらさらと軽い音が、静か過ぎる室内に波紋を投げた。





「……ん……ぅ……」





身じろぎと共に漏らされる声。
はっと身を硬くした。
起こしてしまったのではないかと、恐る恐る覗き込んだ表情は。

「……馬鹿面」
「失礼な」
「っ……!」

急に開かれた目、しっかりばっちり視線がぶつかる。
慌てて距離を取ろうとしても、
いつの間に伸びたのか、背に回された腕がそれを阻んだ。

「放せよっ」
「ヤダ」

ぐいと身体を引き寄せられて。
眠たげに、とろりと半ば伏せられた目が、とても近い。
どぎまぎするのを知ってか知らずか、胸に顔を押し付けられた。
子供か犬猫がするように、頬を摺り寄せて。





「あったかいなぁ、花白は」
「っあんただって……!」
「それに、優しい」

優しいね、おまえは。
思わず口を閉ざして、少し下にある桜色の頭を凝視した。

「……え、っと……」
「それじゃ、オヤスミ」
「って寝るのかよ!?」

ウンともムゥともつかぬ声を残して、蕩ける紅玉は瞼の下に。
力を失い、かくんと項垂れた頭を軽くはたいた。
それくらいじゃ、到底目を覚ましそうにはなかったけれど。










ちょっとだけ、驚いた。
いつになく、柔らかな笑みを浮かべていたから。
本当に大切なものを見るような、優しい優しい目をしていたから。
そんなこと、あるはずもないのに。

「馬鹿みたいだ」

抜け出そうと思えば抜け出せるのに。
それをしないのは、どうして?
振り払うことも出来るのに、受け入れてしまうのは、何故?

下手に動いたら起こしてしまうから、なんて。
そんな嘘、いつまで続けられるだろう。
とっくに離れられないって、思い知らされているというのに、ね。











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