順繰りに廻る季節の中で、ただぼんやりと空を仰いだ。
何を強要されるでもない。何を求められるでもない。
そんな日々の片隅に、ぽっつり落ちた黒点を見る。
見る見る広がるその影は軽い音と共に地に降り立った。










─独りの秋─










頬杖をついたまま、隣に現れた気配を見遣る。
相手は微かな笑みを浮かべて、欄干にトンと背を預けた。

「何か用?」

投げた問いに首が振られる。
否定の言葉と動きに合わせて帽子の羽根がゆらんと揺れた。

「用がなければ来てはいけないのかい?」

そんな声に、そうじゃないけど、と小さく笑う。
祈るように組んだ指をくるりと返して伸びをした。
顎を支えて喋っていては頭が揺れて仕方がない。

「暇なんだね、黒鷹サン」
「今は、ね」

お蔭様でと言われた気がして、ほんの一瞬呼吸が止まった。
すぐさま息を取り戻したけど跳ねた動悸が治まらない。
思った以上に深く根差して、どうにも離れてくれなくて。





「なあ、救世主殿」
「……何さ、黒の鳥」

呼ばわる口元は微笑っていたけど、
金色の眸はちっとも笑ってなんかいなかった。
口調こそ柔に響いたけれど、どこか不穏な固さを抱いて。





「お互い、独り身は寂しくないかい?」
「俺は独り身じゃないんだけど」

じっとりと半ば眼を閉じて言う。
相手は悪びれた素振りも見せずに、軽く肩を竦めてみせた。

「おや、そうかい? 幼馴染殿は戦に駆り出されたそうじゃないか」
「……よくご存知で」

どこから仕入れた情報だとか、唐突に何を言い出すのかとか、
問い返したいことはあったはずなのに。
言葉が、うまく紡げない。
浮かんでこない。頭の中に。

「最後にあの人に会ったのは、いつだい?」
「忘れたよ、そんなこと」

にっこりと笑ってみせる。
身を翻し、同じように欄干に凭れて。
ぐいと顔を相手に向けて、それで? なんて小首を傾げる。





「少し、私と遊ばないか」
「……黒鷹サンと? 何をして?」
「さあ? それは君が考えたまえよ」

私は暇潰しの提案をしてあげたまでさ。
偉そうに言って両手を腰に。
どうだい、とばかりに胸を張る。

芝居掛かったその仕草だとか、
今はちゃんと笑っている両の眼だとか。
そんな些細な変化ひとつにどこか安心した自分がいて。





それを認めるのが、酷く癪で。





「……どうしようかなぁ」

なんて、考える振り。
動悸は未だに治まらない。










ああ、なんて喧しい!











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