硝子で作った鈴の音は、誰よりの綺麗なあの人の声。
直刃の刀身を弾いた声音は、傍らに在る幼馴染のもの。
耳に優しく響いて消えて。生温い安堵に包まれる。

不意に琴線に触れる音。
薄玻璃氷を踏み割ったよな、儚い音色は誰の声?










─厳寒の頃─










枯れた下草、霜柱。
歩みを進める度さくさくと、踏み拉かれて崩れて散った。
霜を纏った木の葉を一枚、土産代わりにと拾い上げる。
触れた途端に溶けて流れて、手に残ったのは萎れた葉のみ。

「……まあ、無理なんだけど」

吹き付ける北風、ぶるりと身震い。
首を縮め背を丸くして、両手は袖に仕舞い込んだ。
引き出せば白く血の気が失せて、手指の先だけ異様に赤い。

白い息を吐きかける。悴んだ手に刹那の春。
それもすぐに吹き散らされて、再び冬に閉ざされた。
他の季節を侵す、長過ぎる冬に。





かたん、と扉が小さく鳴いた。
手を触れてなどいないのに。
それどころか、まだ相当の距離がある。
首を傾げた矢先、耳障りに軋みながら扉が開いた。

「……もしかして……待っててくれたの?」

内側から扉を開けた子供に笑みを。
問いを投げれば、白い頬を朱に染めて、こくり頷く。
はにかんだように笑った拍子、零れた吐息が白く凝った。





招かれるままに歩み寄り、柔な頬に手を押し当てる。
華奢な身体がびくりと跳ねて、冷たい、と目を丸くした。

「寒かったでしょう?」
「ちょっだけね」
「……ちょっとじゃ、ないんでしょ?」

拗ねたように、怒ったように、上目遣いの視線が尖る。
頬から離れようとした手を取られ、小さな手のひらが重ねられた。
子供の高い体温が、冷えた皮膚にじわりと沁みて。

「あったかいお茶、いれるから。暖炉の前で待ってて」
「うん。アリガト」

するり解ける小さな手。
思わず掴んで引き寄せたいと、そう思ったのを押し留める。
小さな背中を見送って、熾火に両手のひらを翳した。

確かな熱、揺らめく炎。
じりじりと肌を温めては、徐々に体温を取り戻す。





ああ、けれど。





「はい」
「……ありがと」

差し出されたカップの温かさや、熾火の高い熱よりも。

「ね、玄冬」
「なに?」
「寒いからさ、ここおいでよ」

手招き、近付く軽い足音。
ぺたりと床に座り込み、膝の上においでと呼んだ。
何の疑問も抱かぬようで、華奢な体躯が目の前に。

「んー、玄冬はあったかいなぁ。ちっちゃくってさ」
「ちっちゃくない」
「俺から見たらちっちゃいよ?」

後ろから抱き込む子供の身体。
確かな脈と息遣い。
何よりも、誰よりも、あたたかくて、やさしくて。





いずれ殺めねばならないと、そう知りながら近付いたのに。
割り切っていた、はずなのに。










薄玻璃氷の声の子よ。
どうか唄を止めないで。












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