外には何もないのだと、そんな選択をしてくれるなと、
硬い声音で告げられる。哀しげな眸に諭される。
口調に、視線に困惑の色。浮きつ沈みつ滲ませて。
それでも最後は折れてくれると、知った上での駄々を捏ねた。










─光の中へ─










歩めど歩めど果てはなく、広がり続ける闇また闇。
伸ばした手指の先すら沈む。声も呑まれて響くことはなかった。
何があるとも知れない足下、歩みはどこか覚束ない。

「どこまで行こうと言うんだい」

呆れた声音、腕を取られる。
危うく見失うところだと、咎める口調は柔らかだった。

「ここに果てなどありはしないよ」

いい加減に休もうじゃないか。ほらもう私は歩けないぞぅ!

言ってその場に身を投げ出し、見たまえ! と大の字を作ってみせる。
ちらり見遣って溜息ひとつ。呆れてものも言えやしない。

「いい歳こいて恥ずかしくはないのか?」
「何を恥じらう必要があるんだい? ここには君しかいないじゃないか」

尤もな言い分に押し黙る。ここには自分と黒鷹しかいないのだ。
他には何もないし、誰もいない。ただ闇ばかりが広がるのみで。





「……良かったのかい? 本当に」
「くどいぞ、黒鷹」

何度目とも知れぬ問答に、半ば目を伏せ溜息を零す。
望んだのは自分なのだからと、いくら告げても寂しげに笑うだけ。
そんな表情をさせるのもまた自分であると気付く度に罪悪感を抱いた。

「こんな何もないところに連れて来るのは嫌だったんだが」
「連れて行けと言ったのは俺だ。今更だろう」
「それはそうだけれど、ねぇ」

ごろりと身体の向きを変え、恐らく仰向けに寝転んで。
脱いだ帽子を胸元に乗せ、けれどねぇ、と言葉を紡ぐ。

「もっと違う選択をさせたかったと思うんだよ」
「それを選ぶとは限らないぞ」
「まあね。それでも、思うのさ」





もっと違う選択を、と。
そう紡ぐ唇を、止める術など生憎持ち合わせていない。
黙れと言ったところで聞くとも思えず、飽きるまでただ語らせて。





「それに、何もないわけじゃないだろう?」
「……うん?」

言霊が尽きたのを見計らい、そう切り出した。
慣れない笑みを浮かべてみせる。

「俺がいて、おまえがいる。それから、」

手の中に抱いた破璃の珠。
暗闇であっても淡く輝く、かつて暮らした小さな庭。





「世界が、ここにはあるだろう……?」





愛して止まない美しい世界が。
守りたいと願った果敢ない破璃の珠が。
まるで言葉に応えるように、淡い光をゆらり放った。











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