かくれんぼ、鬼ごっこ。こっそり持ち込んだ騙し絵の本。
下手くそな絵を描き殴ったり、紙飛行機を飛ばしたり。
次は何して遊ぼうか?
─運命の糸─
トン、と扉を軽く叩けば、軽い足音が近付いてくる。
ぱたぱたと駆け足で、ぶつかるように扉に触れて。
古びた扉を耳障りに軋ませ、その向こう側に子供の笑み。
いらっしゃい、と弾む声。
「やあ」
にこりと笑顔を返してみせて、手にした包みを差し出した。
簡素な紙の袋の中で、まだ少し温かい、それ。
不思議そうに首を傾げて、受け取ると小さく「重い」と呟く。
「これ、何……?」
「お菓子。あとで一緒に食べようと思ってさ」
言えば眸が輝いて、嬉しそうに「ありがとう」と。
柔な髪をくしゃくしゃと乱し、中に入ってと促す声に素直に従う。
軋みながら閉ざされる扉。その向こう側に何を見るのだろう。
出迎えたのは幼い玄冬。訪れたのは年若い救世主。
笑いあう姿は歳の離れた兄弟のよう。
本来ならば、相容れぬ存在であるはずなのに。
空を裂く羽音。降り立つ足音。
ちらりと視線をそちらへ投げれば、見慣れた姿が目に映る。
「良いのですか」
「何がだい」
「アレを止めずにおいて」
アレ、と示すのは子供の住まう古城。
たっぷりとした袖で口元を隠し、良いのですかと繰り返す。
視線は鋭く、隣に佇む黒衣を睨んで。
「良くはないのだろうね」
「ならば、」
「けれど悪くもないようだ」
言って黒鷹は薄く笑う。
見てごらんよ楽しそうじゃないかと、目を細めて。
翡翠の眸が惑うように揺れる。
覆い隠した唇から、ですが、と震える声が零れた。
「あれでは、また」
「また?」
「……いえ」
何でもないと首を振る。
薄いベールが、細い髪が、動きに合わせてふわりと揺れた。
「まあ心配は要らないだろう」
ゆるやかに手指を組み合わせ、とつとつと言葉を紡ぎ出す。
流れるように、歌うように、自分自身に言い聞かせるように。
「玄冬はともかく、救世主はちゃんと理解しているようだからね」
「……ええ、勿論」
「それに止めたとしても無駄だろう。
救世主は貴方の言いつけを破ってあそこにいるのだから」
近付いてはいけないという禁を破って、ああして会いに来ているのだから。
決して責める口調ではなく、だから尚更心に重い。
「……黒鷹……」
「手繰り寄せたのはあの子らなんだよ、白梟」
だから仕方がないことなのさ。
どこか寂しげにそう呟いて、手にした帽子を被り直す。
視線は古城を捉えたまま。
「……貴方は、」
「うん?」
見詰める眸は穏やかで、哀しげで。
微笑んでいると見せながら、憂いの翳が覗くよう。
「……いえ。なんでもありません」
一度目を伏せ、ゆるり開いて。
見据える先には笑いあう子供ら。
「冬が、来ますね」
「ああ」
「今年は、また厳しさが増すでしょう」
「そうだね」
「春、は……」
言いさして唇を閉ざした。ゆるゆると数度かぶりを振る。
窓枠に触れる、手指を握る。白く血の気が失せるほどに。
遊び疲れて菓子を頬張る。甘い匂いを撒き散らしながら。
子供は始終笑っていて、つられて頬が緩むよう。
「うまい?」
「うん。おいしい」
子供にしては行儀よく、けれど頬に食べかすをつけて。
頬張る横から手を伸ばし、ついてるよ、と取り去り笑った。
「食べ終わったらさ」
「うん」
「次は何して遊ぼうか?」
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