よく出来ましたねと、あの人は褒めてくれた。
やわらかく頭を撫でてもくれた。
今更、それを恋しく思う訳ではないのだろうに、
見詰める眸が酷く哀しい。










─微笑みを─










きゃあ、と甲高い笑い声。
ちらり見遣れば白梟と、その腰元に纏わりつくはなしろの姿が目に入る。
何のことはない見慣れた風景。
視界の端に映り込む、花白の表情さえ除けば、だけれど。

「はーなーしろっ!」
「ッわ……!?」

そろりそろりと近寄って、不意を突いて抱き竦める。
後ろから抱え込むようにして、体重を思い切り掛けてやった。





「どけよ! 重いっ!」
「やーだーよー」
「っこの……!」

身体全体を縦に横に、これでもか! と揺さぶって。
どうにか俺を振り払おうとするけれど、そう簡単には離れない。
離れられるわけ、ないじゃないか。





「羨ましい?」
「何が!」
「ひよこが」

白梟が微笑ってくれる。
優しく優しく、髪を撫でてくれる。
いつの時代でもその所作は変わらないのだろうに。
花白はどこか苦しそうな顔をして。





「……別に」

フイ、と視線を逸らしてしまう。
ああやっぱり、と苦笑した。





俺だって、あんな優しい顔をした白梟を見るのは初めてだから。
割り切っているつもりだったのに、少しだけ複雑な気分になった。
それならきっと、花白だって。





「しーろふーくろーぅ」
「な、」

花白の背に乗ったまま、声を大にして彼の人を呼ぶ。
絶句して、目を丸くして、酸欠の金魚みたいに忙しなく口をパクパクさせて。
なんとなく言いたいことは解るけど。





はなしろと手を繋いだまま、翡翠の眸がこちらを向いた。
どうかしたのかと言いたげな顔で、僅かに首を傾げてみせる。





「ね、白梟。文官から良い茶葉貰ったんだ。お茶にしようよ」





白梟が淹れたお茶、久し振りに飲みたいなァ。





ニコニコしながらそう告げる。
微かな衣擦れ、子供の足音。連れて来るのはきれいな人。

「そうですね」

ふわり、花が綻ぶような、見たこともない柔らかな笑み。
花白が苦しそうですよ、とやんわりこちらを嗜めて。
伸ばされた手が花白の髪に。乱れきった桜色を、そっと梳いて整えるように。





「行きましょうか」





空いた方の手が差し伸べられる。花白の、すぐ目の前に。
躊躇うように紅玉が揺れて、おずおずと触れる華奢な手指。
スイと翡翠の眸を細め、さあ、と促す声が優しい。




















頬を耳を赤く染めて、俯きながらも頷いて。
空いた手の中に俺の指。きゅ、としっかり握ってくれる。
小さいながらも温かな手のひらに、笑みが零れるような気がした。











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