ずっと一緒だと約束した。それを信じて疑わなかった。
俺の右隣には彩白が、彩白の左隣には俺がいる。
この位置関係が変わることなんて絶対にないと思っていた。
だって俺たちは二人で一人なのだから。










─消せない痛み─










寄せては返す波のように、絶えることなく繰り返される。
癒えたはずの傷、不可視の痛み。
じくりじくりとひいらぐようで、腹の奥底がざわめいた。

「どうした?」

振り返れば鏡に映したかの如き相貌。
困ったような笑みを浮かべて、どうした、と首を傾げて。

「……ううん。なんでもない」

きゅ、と腰にしがみ付いて、頬を摺り寄せ目を閉じる。
大きくて筋張った手が、くしゃくしゃと髪を撫ぜ回した。





喧嘩らしい喧嘩なんて数えるほどしかしたことがない。
たとえ喧嘩になったとしても、すぐ隣に彩白がいた。
だから、すぐに仲直り。





「おかえり、彩白」
「ただいま。月白」

笑う声音はそっくり同じ。
仰いだ表情は、俺よりずっと穏やかで。





ずっと一緒だと約束した。それを信じて疑わなかった。
離れようったって離れられないのだから。
切り離されでもしない限り。





「ねえ」
「うん?」
「一緒に寝てもいい?」
「……いいよ」





顔も背丈もそっくり同じ。
笑みも声音も、なにもかも。
けれどひとつだけ、たったひとつだけ、





「俺が左ね」
「ああ、勿論」

腕を引いて、抱き締めて。
小さい頃のように身を寄せ合って。





俺の右の脇腹と彩白の左の脇腹に、それぞれ走る深い傷跡。
一繋がりだった双子を人為的に別ったその名残。





切り離されたりしなければ、不安に思うことなんてなかった。
彩白がどこかへ行ってしまうんじゃないか。
置いて行かれてしまうんじゃないか。
こんな風に、疑うこともなかったのに。





「ね、彩白」
「うん?」

もぞもぞと身体の向きを変え、ひたと彩白の目を見据える。
そっくり同じ紅い眸。柔らかな笑みの形をして。

「ずっと、ずっと一緒だよね……?」

縋るような問い掛けに、ほんの僅か目を瞠って。
けれどすぐに抱き竦められる。
子供にするみたいに、ぽんぽんと背中を撫でられた。

「あたりまえだろ。約束したじゃないか」

耳にじわりと注ぎ込まれる、欲して止まない甘露の滴。
背を撫ぜる手の温かさ、指先に感じる拍動のリズム。
どれもこれも一番近くにあるはずなのに、今は誰よりも遠く感じられた。










もっとずっと、俺のことしか考えられなくなればいいのに。











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