触れる指先、撫ぜる手のひら。
髪を繰り返し梳かれる感覚。
そんなことはありえないと、解っているのに。










─柔らかな温もり─










大きいのや、ちっこいのや、玄冬や黒鷹や小さいくろと。
入れ代わり立ち代り訪ねて来てくれるけど、まともに話す気力がない。
頭が痛くて、喉も痛くて、くらくらする。

「花白」

名前を呼ぶのは誰だろう。
どこか遠くから聞こえるようで、誰の声か解らない。
薄く開けた目は焦点を結ばず、姿を捉えることも出来ない。

「……だれ……?」

額に触れる冷たい手。
玄冬がまた来てくれたんだと思った。
指先の感触が似ていたから。

「熱は、まだ下がらないのですね」

小さく息を吐く気配。
誰だろうという疑問が霞む。
まさか、と思った。
そんなはずはない、って。





「薬は? ちゃんと飲んだのですか?」
「……うん」

こくりと小さく頷きを返す。
たったそれだけの動きなのに、頭がずしりと鈍く痛い。
息が止まる。顔を顰める。
額の手が一瞬離れて、そっと押し当てられるよう。

「じっとしておいでなさい」
「……でも」
「安静にしていれば、すぐに治りますよ」
「……うん……」

繰り返し、繰り返し。
何度も頭を撫でてくれる。
熱を持った額に触れてくれる。
冷やそうとしてくれているみたいに。





「……ありがと」





ありがとう、と。
ちゃんと伝えられたかな。
掠れた声で、大丈夫だったかな。

少し心配だったけど、確かめることは出来なかった。
意識がストンと眠りに落ちて、その後のことは覚えてない。
ただ、





「……しろ、ふくろう……」





ずっと傍にいてくれて、何度も撫ぜてくれていたのが、
玄冬じゃないってことは解った。
指先が少し震えていて、玄冬の手よりずっと冷たかったから。










そんなこと、あるはずないと思ってた。
でも、だから、嬉しかったんだ。
治ってからじゃ言えないから、さっきちゃんと言えてたかな。
ありがとう、って。伝わったかな。











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