瞬きをする暇さえ惜しい。
閉じてしまえば辺りは真っ暗。
降り頻る雪も君の顔も、すべて呑まれてしまうから。
─罪と罰─
仰いだ空は重い灰色。
飽きもせずに雪を吐き出して、世界を白く染めていく。
花のように羽根のように、灰のように、見えた。
「花白、平気か?」
はたはたと積もった雪を払い落として、玄冬が声を掛けてくれる。
半ば閉じた目を開いて、平気だよ、と小さく告げた。
腕を伸ばし、背筋を伸ばし、玄冬に積もった雪を払う。
ほとり、落ちる白い塊。
指先で触れた玄冬の髪が凍ったみたいに硬く感じられて、
だいじょうぶ? と問いを投げた。
「ああ。大丈夫だ」
答えてくれる。笑ってくれる。
心配するなと髪を撫でてくれる。
それがすごく嬉しくて、猫みたいに頬を寄せた。
耳を押し付け鼓動を聞いて、生きている、と実感する。
触れる手指は冷え切っているけれど、縋る首筋はあたたかくて。
コトコトと脈打っている。いのちを紡いでくれている。
それが、ほんとうに嬉しくて。
「ありがと、ね。玄冬」
言えば少しだけ目を瞠って、苦しそうな笑み。
気にするな、なんて言葉をくれるけど。
けれど、でも……
ごめん、ね。玄冬。
口に出せば、また悲しそうに笑うから。
黙したままで目を伏せる。
吐き出した息、熱を奪われ、白く濁ることもなく。
目を開けば玄冬がいる。
少し手を伸ばせば触れられるほど近くに。
ずっと話し掛けてくれるけど、返す言葉が少なくなって。
きっと気付いてないんだろうね。
苦しそうに、悲しそうに、それでも笑みを浮かべてること。
いつも君は優しいから、無理に笑おうとしてるってこと。
君にそんな顔、させたくなかったな……。
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