ゆっくりと動き出す歯車。
惑うように軋みながら、輪廻の理を刻み込む。
どこまでも澄んだ玉を眺め、ふと首を巡らせて室内の惨状を目に映す。
そこはまさに樹海。










─黎明─










くるりと丸めた羊皮紙の山、乱雑に積んだ書物の崖。
雪崩れた紙の所々に綴られた、のたくる蚯蚓を模したかの如き小難しい数式。
足の踏み場もないはずの床。お構いなしに歩を進め、辿り着いた先に澄んだ箱庭。

「……面倒な……」

ガリガリと頭を掻いて、顔にかかる髪を苛々と払った。
踏み拉かれた紙切れがカサリと乾いた音をたてる。
座る場所すら見出せず、適当な場所にドカリと腰を下ろした。
尻の下に敷き込んだ分厚い本の角が痛い。

てのひらを翳せば淡く輝く。指先ひとつで四季が廻った。
楔となる鳥も打ち込んだ。調整は、もう充分に。

「……フン」

ふと、かつて棄てた庭を思う。
駄々を捏ねた鳥にくれてやった、あの庭を。
久しく様子を見ていない。
そもそも存在すら忘却の彼方に追い遣っていたのだ。





……覗いてみるか……。





頭を擡げたのは好奇心。純粋なる興味。
しかしすぐに萎んでしまう。
求む庭は樹海の底に。掘り起こすことを考えるだけで億劫だった。
付け加えるなら、そこまでの執着は今はない。

「……まあ良い……」

手の中に抱いた新たな庭。
今は、これでいい。
否、この庭が、良い。





庭に潜れば鳥が迎えよう。
実を結ばんと翼を広げ、掲げた理想を目指し飛ぶ。
この世の理を、その腕に抱きながら。





いつか覗いてやっても構わんだろう。
覚えていたらの話ではあるが。










「……いまは春、か……」











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