「……無理じゃない」
「花白?」
「無理じゃない!」

叫ぶようにそう言って、彼の襟元をぐいと掴んだ。
驚いたように丸くなった目が、ぼやけてしまうくらいに近い。
引き寄せて、口吻けて、無理じゃない、と繰り返した。

思い描いていた状況とは少し違ってしまったけれど、触れたいと思ったのは本当で。
想いを告げて、頷き返され、舞い上がるくらい嬉しかったのに。

「無理じゃない、から」

情けないくらいに掠れた声。手だって小刻みに震えてる。
じりじりとした焦燥は燻り続けて治まらない。
やめないで、と紡いだ声に、藍色の目が瞬いた。





「……本当に、いいのか?」

念を押すような玄冬の声に、こくりとひとつ頷いて。
留め直された服の釦を震える指でぷつりと外した。
挑むみたいに藍色を睨めば、ふ、と小さく息を吐いて。

わかった、と囁かれ、唇に触れるだけのキス。
次いで首筋に顔を埋められて、ひくんと小さく体が跳ねた。
唇が触れ、軽く喰まれて、仕上げとばかりに吸い上げられる。
ちりりと走る僅かな痛みに背筋がぞくりと粟立った。

「っ、……ん……、ふ」

手のひらで覆った口の中から聞くに堪えない声がする。
押さえ込もうと躍起になるのを玄冬の手が引き剥がした。





つ、と口端を伝って落ちる、唾液にも似た生暖かさ。
玄冬はむっと顔を顰めて指の腹でそれを拭った。
鼻を掠める錆びた匂いと彼の指を染める赤い色。
血だ、と理解するより先に、噛むな、と叱る声がした。

「だって、声が……」
「誰が聞いている訳でもないんだ。気にするな、そんなこと」

言いながら玄冬は身を屈め、口吻けながら血を舐める。
ぴり、と痺れる痛みに触れられ、体も呼吸も小さく跳ねた。
それに伴い零れる声に羞恥と熱とが煽られる。
傷口をなぞる舌先に、くらくらと目眩すら引き起こされて。

「玄冬が、聞くじゃない」

途切れ途切れに紡いだ言葉。呼吸は浅く、同時に早い。
体の熱さを自覚しながら上目にじとりと彼を睨んだ。
けれど、





「……花白、」
「なに……ん、ぁ……っ」

首から鎖骨へ、鎖骨から胸へ。徐々に下へ下へと向かう。
触れられる箇所が熱を帯び、生まれた疼きが背中を走った。
声を抑えることすら出来ずに、息を継ぐのに必死になって。

シーツに縋る手を引き剥がされて思わず玄冬に縋り付く。
奥へと至った指に慄き、爪を立ててしまったけれど。
謝ることも出来ないくらいに、掻き乱されて、翻弄されて。

こんなはずじゃあなかったのになと思うことすら忘れてしまった。






リクエスト内容(意訳)
「花玄のつもりが逆転される花白様」

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