ゆるりと彷徨う新緑の眸、風に煽られ揺れる髪。
ひらりふわりと翻るヴェールを白く華奢な手がそっと押さえた。
花弁にも似た唇からは、いとし子の名が紡がれる。
どこへ、と続いた声の主は不安げにきゅうと眉を寄せた。










─posy─










ここにもいない、と項垂れて、自然と止まった両の足。
どこへ行ってしまったのかと考えるほどに胸が騒いだ。

春らしい陽気になったとは言え、吹く風はまだまだ冷たいもので。
季節の変わり目になると体調を崩して、あの子は何日も寝込んでしまう。
先日も風邪を引いたばかりで、やっと治ったと思っていたのに。

知らず握った白い指。ぎゅう、と強く力を込めて。
心当たりをもう一度、と顔を上げたその時だった。

ぱたぱたと軽い足音がして、しろふくろう! と呼ぶ声が。
はっと小さく息を呑み、声の主へと向き直る。
駆け寄ってくる小さな影に、ほっと安堵の息を吐いた。





「どこへ、行っていたのですか?」

ずっと探していたんですよ。
そう言うと子供はきょとりと瞬き、小さく首を傾げてみせた。
ぼくを? と問う声に頷き返せば、ぱっと表情を輝かせて。
おんなじだ! と嬉しそうに、弾む口調でそう言った。

「ぼくもね、ずっとさがしてたんだよ」
「私を、ですか?」

そう尋ねればまた頷いて、もじもじと体を僅かに揺らす。
子供の両手が見えないことに、その時初めて気が付いた。
背中に隠した両の手が、ぱっと眼前に差し伸べられる。
視界いっぱいに咲き誇る花は、小さなその手に握られていて。





「これ、しろふくろうにあげる」

咲いたばかりの花なのだろう。陽射しを受けて露が光った。
不揃いな長さの花束を受け取り、そっとその場に膝を折る。
視線を合わせて礼を言えば、子供はふにゃりと柔らかく笑った。
照れくさそうに、はにかむように、僅かに首を竦めながら。

「これは、あなたが?」
「うん。お庭のおじさんといっしょに」

言って指差すその方向には麦藁帽の庭師が一人。
曲げていた腰をウンと伸ばして、こちらに気付き会釈した。

「そうでしたか」

にこにこと笑う子供の手を取り、その冷たさに息を呑む。
頬に這わせた指よりも尚、丸みを帯びた肌は冷たい。
どうしたの? と首を傾げる子供の手指を、両手のひらでそっと包んだ。





「風邪を引いてしまいますよ」
「もうなおったよ?」
「こんなに体を冷やしては、また熱を出してしまいます」

言うと子供は口を尖らせ、だいじょうぶなのに、と不満顔。
そんな仕草に笑みを零して、さあ部屋へ、と手を引いた。
右手に花束を、左手に子供の手を。
やんわり繋いで一歩二歩。

きゅうと私の手を握る、小さく細い子供の手指。
その感触に目を細めつつ、両手のしあわせに笑みを零した。












一覧 | 目録 |