庭の花がきれいだったから、あの人に、と。そう思った。
風は少し冷たかったけど、日なたにいれば暖かい。

お庭のおじさんに手伝ってもらいながら咲き誇る花をひとつに束ねた。
きっとお喜びになりますよ、と。おじさんはそう言ってくれて。
照れくさくて、でも嬉しくて、そうかなぁなんて笑っていたら。

コツコツと聞きなれた足音がして、ふわりと揺れるやわらかな金色。
若葉の色したふたつの眸があっちへふらり、こっちへふらり。
しろふくろう! と名を呼ぶと、はっとしたようにこちらを向いて。
ほっとしたような顔をして、ほんの少しだけ眉を下げた。





「どこへ、行っていたのですか」

ずっと探していたのですよ、と。
言われてきょとりと一度瞬き、ことんと小首を傾げてみせる。
ぼくを? と小さく問いを返せば、肯定の意で頷いて。
それがなんだか嬉しくて、おんなじだ! と僕は笑った。

背中に隠した花束を、手の中で何度も握り直して。
不思議そうな顔のあの人へ、はい、と花を差し出した。
丸くなった緑の目。え、と零れた小さな声。

「これ、しろふくろうにあげる」

そう言えば益々目を丸くして、それからふわりと微笑んだ。
長さの不揃いな花束を、そっとそっと手に取って。
春風みたいな優しい声で、ありがとうございますと囁いた。
くすぐったくて、照れくさくて、口がふにゃりと緩んでしまう。





これは、あなたが?
そう問う声に頷いて、おじさんと、と庭を指す。
伸びをしていたおじさんが、こちらに気付いて優しく笑った。
にこにこと手を振っていたら、そうでしたかと淡い声。

振り向く僕の手を取って、白梟が息を呑む。
頬を撫ぜる手が優しくて、でもその表情は硬くって。
どうしたの? と首を傾げたら、大きな手のひらが僕の手を包んだ。

「風邪を引いてしまいますよ」
「もうなおったよ?」
「こんなに体を冷やしては、また熱を出してしまいます」

きゅう、と手のひらに力が篭る。
痛くない程度の、優しい力で。
部屋に帰るよう促す声が、繋がれた手が嬉しくて。

風にひらひら翻るヴェールと、金色の髪がとてもきれいで。
こっそり見上げたあの人の顔は、やさしくやわらかく微笑んでいた。










枕元に生けた花を見て、そっと両の目を伏せる。
脳裏を過ぎった思い出が、未だにぐるぐる廻るよう。
もうあの日々は戻らないのに。
知らず知らずにそう零したら、鼻の奥がツンとした。

「花白、どうした?」
「……ううん、なんでもない」

ゆるゆると首を横に振り、視界から花を追い出して。
訝しむ相手に笑い掛けながら、大丈夫だからと繰り返した。

思い出の中のあの人は、今でも優しく微笑ってる。
そっとそっと蓋をして、見えない腕で抱き締めた。











リクエスト内容(意訳)
「本編前の優しいお話」

一覧 | 目録 |