不意に会話がふつりと途切れた。
並んで座した寝台の上に何とも言えない沈黙が落ちる。
間を持て余して伸ばした腕は、自然と桜の髪を求めた。
指の先で軽く梳き、繊細な感触を楽しむように。
髪を梳く手をやんわり取られ、花白の目が俺を見る。
何だ? と問いを紡ぐより早く、ふわりと唇が重なった。
―酔芙蓉―
僅かに腰を寝台から浮かせ、伸び上がるように喉を逸らせる。
数えるほどしかされたことのない花白からの口付けに思考は容易く停止した。
触れるだけ、重ねるだけのあまりに儚い唇の接触。
見開いたままの両の目には恥じるかのような花白の顔。
白い頬を仄かに染めて、俯き加減に俺を見た。
ちらりと上目に窺う様はどこか不安げな色を宿して。
それに、酷く煽られる。
口付けを仕掛けてきた相手なのだから尚のこと。
「っん……」
花白の後頭部に手を回し、抱き締めながら唇を塞いだ。
啄むように何度も重ね、時折軽く喰むように。
慣れぬ行為に戸惑う様が支える腕から伝わってくる。
そっと身を離すと潤んだ眸が上目に俺を窺った。
薄く開いた唇からは乱れた呼吸が絶えず零れて。
「花白」
小さく名を呼ぶと、ぴく、と身体が微かに震えた。
なに? と唇の動きで返され、躊躇った後に言葉を紡ぐ。
「……触れても、いいか……?」
する、と髪から手を退けて赤い眸を窺った。
困惑のためか視線は泳ぎ、薄い唇が微かに開く。
す、と息を吸う音がして、花白の目が俺を見た。
「嫌だ、なんて言うと思う……?」
声を拾い、頭で理解するよりも先に、その細い身を抱き締める。
再び重ねられた唇を舌の先でそろりとなぞった。
薄く開かれた隙を突くようにして咥内に舌を差し入れる。
戸惑い逃げる花白の舌に、自らのそれを絡めて吸った。
「ん、……ふ……ぅ」
息を継ぐ間も与えぬような深い深い口付けの合間、零れた吐息が酷く熱い。
力の入らない手や指先が弱々しくも背を掻いた。
苦しげに身を捩る様に、そっと重ねた唇を離す。
つ、と唾液が糸を引き、下し切れずに口端を伝った。
「……は、……」
くったりと肩にもたれる相手の吐き出す呼気に甘い色。
涙の滲んだ赤い眸は焦点が合わずに揺らいでいる。
宥めるように背を撫ぜながら片方の手で釦を外した。
「っ、」
露わになった白い肌に触れると花白の身体が僅かに強張る。
手指が肌を滑る度、びくりと小さな震えが走った。
きつく目を閉じ息を詰める様に、ふ、と微かに苦笑を浮かべる。
「怖い、か?」
宥めるように髪を梳き、耳元にそっと問い掛けた。
途端にふるりと首を振り、こわくない、と震える声で。
上目にこちらを仰ぐ両目は涙の膜に覆われて。
ぱちりと一度瞬くと、雫となってぽろりと落ちた。
「怖くない、よ。ただ」
「ただ?」
「……」
少しでも花白が落ち着くようにと細い身体を抱き締める。
髪を梳き、耳朶に触れ、頬から顎へと指を這わせた。
くすぐったいのか首を竦めて、ふふ、と微かな吐息が漏れる。
「もう、だいじょうぶ」
僅かに震える囁きが落ち、赤い眸がやんわり笑んだ。
その目に応えるかのように、唇を重ね舌先で触れる。
苦しげな気配に距離を取り、鎖骨へ胸へと手を滑らせた。
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