窓から差し込む眩い朝日と軽やかに響く小鳥の囀り。
枕に埋めた顔を上げ、向きだけ変えて再び落とす。
起き出すにはまだ少し早い。だからもう一眠りしよう。
そう思いながら目を閉じようとし、けれど大きく見開いた。
心臓が跳ね、呼吸が止まり、嫌な汗が滲み出る。
寝台の上、目と鼻の先で、自分がもう一人寝こけていた。
―総ては神の御心次第―
戸惑いながらも息を吐き、反動をつけて身を起こす。
裸足のままで寝台を下りて足早に部屋を飛び出した。
誰かいないかと周囲を見回し、桜の髪に目を留める。
「花白!」
「っ、な……なに……」
名を呼びながら駆け寄ると驚いたらしく目を見開いた。
逃げ出しそうなその肩を掴み、ずい、と顔寄せ問い掛ける。
「カミサマ、知らない?」
「……、……え?」
「だから、カミサマ。どこにいるか知らない?」
大きく瞠られた両目が瞬き、戸惑う視線が右へ左へ。
肩を掴む手と俺の顔とを交互に行ったり来たりしている。
何も知らないわけではなさそうだ。
花白、と強く名を呼ぶと、びくりと身体を震わせて。
信じられないとでも言いたげな目で、穴が空くほど俺の顔を見た。
「おまえ……大きいの……?」
確かめるような、念を押すような、疑いの色濃いその声音。
真っ直ぐ向けられた視線は変わらず、戸惑いばかりが濃く深く。
「なんだよ花白、寝ぼけてんのか?」
おにーちゃんのこと忘れちゃったの?
よよよ、と泣き出すフリをしながら横目でちらりと花白を見る。
視界に映した相手の表情は、何とも珍妙なものだった。
毛玉を喉に詰まらせて、吐き出せずにいる猫みたいな顔。
どうしたんだよと問うより速く、相手が一歩後ずさった。
肩を掴んだままだったから大して距離は開かないけれど。
「寝ぼけてんのはそっちだろ?」
鏡見ろよと言い捨てて、フイと視線を脇へと逸らす。
つれないなぁと薄く笑って首を傾げたその瞬間。
さらりと視界を覆った銀糸。驚き慌てて振り払った。
途端に走る痛みを受けて、ざっと血の気が引く音を聞く。
気が付いた? と問う花白は、可哀想なものを見る目をしていた。
恐る恐る摘んだ銀色は、俺の頭から生えている。
目の前に並べた手のひらも、纏う衣服も自分のものではない。
「……」
声もなくその場にへたり込み、がっくりと肩を落とし俯く。
気遣わしげな花白の手が、俺の頭にポンと乗った。
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