花白から白梟へ、白梟から黒鷹サンへと情報は伝播したらしい。
促されるまま戻った自室で俺は盛大に溜息を吐いた。
寝台の上には相も変わらず俺の顔したカミサマがいる。

何事か喚いている黒鷹サンと困った顔した白梟と。
三人で何か話しているようだったけど、当のカミサマは迷惑顔だ。

「なんか複雑なんだけど」

離れた位置からその様を見て、はあ、と深い溜息を吐く。
まるで俺が二人に叱られているみたいだ。
俺は何も悪くないのに。





身動きする度に零れる髪は邪魔くさいから括ってしまった。
ばさばさしていて動き辛い服も、袖を二三度折り上げて。

積み重なった書類の山から一枚二枚と取り上げる。
カミサマの格好で出歩くわけにもいかず、仕方がなしに仕事仕事だ。
書類を回収しに来たタイチョーが複雑そうな顔をした。気持ちは解る。
もの凄く良く解るんだけど、ね。





処理済みの判をぺたりと捺して、すっと息を吸い込んだ。
隣に座る花白へ向き直り、がばっとその身を抱き締める。

「うわぁん花白! タイチョーが変な目で俺を見るー!」
「なっ」

慰めて! としがみついたら、離れろ馬鹿! と叫ばれた。
じたじたと抵抗するけれど、力じゃ俺の方が上のはず。
が、

「うわっ、と」

べりっと花白から引き剥がされて、二人揃って目を見開いた。
複雑な色はそのままに、僅かに呆れを滲ませて。
花白の肩に手を置きながら、いい加減にしろ、とタイチョーが言った。

普段よりも遠慮のない力だったような気がする。
詰まんないなと息を零すと、コツンコツンと足音がした。





ちらりと走らせた視線の先、俺の顔したカミサマが鳥を従え歩いてくる。
花白とは逆の位置に座って、そのままころりと寝転んだ。
避け損なった俺の足へ頭を乗せて枕代わりに。

「直す方法、見付かったの?」

疲れたような溜息を零す黒鷹サンに問い掛けた。
ひょい、と軽く肩を竦めて金色の目が俺を見る。
膝で寝こけるカミサマを映し、緩やかに首を左右に振った。

「一時的なものだろうからね、放っておけば直るさ。たぶん」
「……たぶんって」

それまでずっとこのままなの?
俺もカミサマも入れ替わったまま?

相手を見上げて訊ねたら、二三日の辛抱だよ、と。
苦笑しながらそう言って、寝転んでいるカミサマを見た。





「戻るまで大変だとは思うがね、まあ宜しく頼むよ」

この方の気が済むまでは、難しいかもしれないけれど。
ぽん、と投げられたその一言に、膝で寝こけるカミサマを見た。
薄く開いた緋色の目が、にぃ、と笑みの形に歪む。
視線はそらさず言葉を紡ぎ、どういうこと? と黒の鳥に問うた。

「全ては主の御心のままに、さ」
「……要するに、我儘、ってこと?」
「これでもか! と言うくらいに噛み砕いたら、そうなるかな」

はっはっは、と笑う声音をどこか遠くに聞きながら、じとりと膝のカミサマを睨む。
俺の視線などどこ吹く風、ふ、と淡い笑みを浮かべて緋色の眸は瞼の下へ。

ぽん、と肩に手を置かれ、顔を上げた先には花白がいた。
頑張りなよ、と言う声に、タイチョーが無言で頷いて。
そんな励ましに笑い返すことも出来ず、俺ががっくりと肩を落とした。





戻せ返せと訴え続けてその日の夜には戻れたけれど。
俺の膝がお気に召したらしく、時々乗っ取られるようになった。
入れ替わりよりはマシだけどさ、これってどうなの?
ねえ、カミサマ?











リクエスト内容(意訳)
「周囲を巻き込んだギャグ」

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