あの約束を悔やむだろうか。果たせぬことを、嘆くだろうか。
必ずだとか、絶対だとか、そんな不確かなものに踊らされて。
けれど、それでも……
―口約束―
薄く開いた視界は暗く、輪郭はどれも曖昧だった。
ひたひたとシーツに這わせた手が、不意に柔らかな熱に触れる。
はたと思考が停止した後、またゆるゆると回り始めた。
「起こしたか」
「……目が覚めた」
短い遣り取り、身じろぐ気配。
闇に慣れない目は見えずとも、相手が淡く笑むのは解った。
「そうか」
丸みを帯びる低い声。熱の名残か僅かに掠れて。
鼓膜を軽く掻かれるような、くすぐったさに身を竦めた。
「……今度はどれくらい?」
シーツにくるまり寝そべったまま、相手の背中へ問いを投げる。
散々爪を立てた肌は布地に阻まれ窺えない。
襟元の留め具をパチンと鳴らし、身支度を終えて彼は言った。
「三日だ」
「ほんとに?」
「……そう、努める」
困ったように眉根を寄せて、苦く笑っているんだろう。
夜明けの窓を背に向けて、影に沈む表情までは見えないけれど。
「必ず戻る」
告げられて、待ってるよ、と笑みを返した。
片膝を乗せられた寝台が軋む。
掠めるように軽く触れ、次いで深く交わし合った。
息継ぎに離れ、胸を押し、肩を震わせ微かに笑う。
ここらで止めにしておこうよと、悪戯っぽい表情で。
見送る背中、閉ざされる扉。
ひとりでは広過ぎる寝台に沈み、込み上げるものを笑みへと変える。
悔やむだろうか、嘆くだろうか。
考えたところで解らない。
必ずだとか絶対だとか、不確かな約束だと知ってはいるけど。
縋り信じて、ここで待つしかないのだから。
「……おかえり……」
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