歯痒くて、もどかしくて、縋るように手を伸ばす。
絡む指と、触れ合う熱と。
いっそ融けて混ざればいいと、霞む意識の隅で思った。










―紡ぎ歌―










硝子を叩く音がする。ぱらぱらと、酷く軽い。
雨でも降っているんだろうか。
それとも微小な砂粒が風に飛ばされているのだろうか。
確かめる気は更々なくて、僅かに擡げた頭を落とした。

柔らか過ぎる枕に沈む。
鼻も口も塞がれて、今にも窒息しそうだった。





ぎし、と小さく寝台が軋む。
重みが掛けられ微かに傾いで、それが動くとまた軋んだ。
枕に埋めた顔をずらし、気怠い視線をそちらに投げる。

淡い光に浮かび上がった白い顔と蒼い眸。
顔の両脇に腕をつかれて、逃げ場はなしかとぼんやり思う。





口端に笑み、淡く刻んで。
名を呼ぼうかと吸い込んだ息は、唇もろとも塞がれた。
鼻にかかった吐息が漏れる。

息苦しいと肩を押し、爪を立てる手を不意に取られた。
引き剥がされて落ちた先には皺の寄った白いシーツ。
波打つ布地に縫い止められて、抵抗虚しく動けない。

乱れる呼吸、上がる熱。
駆ける鼓動に触発されたか、手指の先がひくりと震えた。
束の間の解放、すぐさま重なる。
どれだけ触れても、触れられても、物足りなさに苛まされた。





声を幾ら紡いだところで、伝わるものなど微々たる量だ。
不確かで、不自由で、煩わしいとすら思うのに。
手放す決心もつかぬまま、悪戯に紡ぎ繋いでいく。





なんて面倒なんだろう。言葉なんて要らないのに。





彼方に飛ばした思考を乱す、深く熱い接触に酔った。
いま何事か言ったとて、まともに吐き出せやしないだろう。
相手の耳に届くかどうか、それすら定かではないのだから。





自嘲気味に笑んだ後、相手の首に腕を回す。
離れた唇を追うように、吐息混じりに噛み付いた。











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