罪の意識も後悔も、生憎持ち合わせていない。
可哀想だとは思ったけれど、仕方ないと言われてしまえばそこまでだ。
俺は救世主で、あの子は玄冬だった。それ以上でも、それ以下でもない。
ただ、それだけのことだったんだ。
―春嵐―
風の匂いを嗅いで思う。
飛び交う羽虫を見て感じる。
春だ春だ春が来た。
頑なな冬がようやく去って、浮き足立った春が来た。
圧倒される、目眩がする。
自室に籠もっても外へ出ても、どこもかしこも騒がしい。
鬱陶しいと思うくらいで、一層春が嫌いになった。
「ねえ、黒鷹サン」
彩城の一角、人気のない庭園。
庭師が手入れに訪れる以外、誰の目にも触れないような場所。
ふらりと踏み入り見つけた黒衣に、ねえ、と軽く声を掛けた。
「あの子、どうしたの?」
問いを投げれば淡く笑んで、緩やかにこちらへ振り返る。
帽子についた羽根飾りが、一拍遅れてゆらりと揺れた。
ほんの僅かに首を傾げ、薄い唇が音を紡ぐ。
「知ってどうするつもりだい?」
暗に答えるつもりはないと、含みを持たせた疑問が返る。
穏やかな声、平然とした顔。
感情の色の薄いそれらに、つまらないなと密かに思う。
「別に。ちょっと気になっただけ」
にっこりと、両の目を細めた。
口端を少し持ち上げて、笑みの形に歪めてみせる。
黒衣の肩をひょいと竦めて、鳥は曖昧な微笑を返した。
「かなしい?」
あの子がいなくなって。
「いいや?」
「へぇ。それにしては寂しそうな背中だったけど?」
「慰めてくれるのかい? 救世主殿」
戯れのように伸ばされる腕が、触れるより前に手荒く掴む。
口元だけに笑みを刻み、まさか、と短く吐き捨てた。
「ちょっと遊んであげるだけだよ」
「おや。それは愉しみだね」
くすくすと、くつくつと、吐息と喉とで笑みを零して。
鳥はくるりと腕を返し、俺の手首をはっしと捕らえた。
一対の金色が細められる。獲物を狙う、猛禽の目が。
「さあ、何をして遊ぼうか……?」
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