ねえ、そんなに似てるかな?
そう訪ねたら少し考えて、似ているな、と頷いて。
柔らかな笑みを浮かべながら髪をくしゃりと撫ぜてくれるけど。

夜闇色のその目はちゃんと、僕を映してくれている……?










─アリエッタ─










笑った顔が似ていると言われた。
ちょっとした仕草がそっくりだ、とも。
そうかな? なんて小首を傾げて、笑ってみせたりしたけれど。

「そんなに、似てるかな」

なんだかちょっと複雑だった。
長兄と比べられているようで、少しだけ哀しかった。
氷砕は僕よりも兄さんのことを好きなんじゃないかと、
そう考えてしまうのが何より嫌で。

「花白?」

怪訝そうに名を呼ばれ、なんでもないよと笑顔を繕う。
きれいに笑えているかどうかは解らなかったけど。





氷砕の表情が僅かに曇った。
そんな悲しい顔はしないでほしいのに。

「すまない」
「なんで氷砕が謝るの?」
「っ、それは……」

何も悪いことなんて、してないでしょう?
問えば氷砕は押し黙り、続く言葉を見出せないようだった。
変なの、とクスクス笑って、渦巻く感情を押し隠す。





好きだって、言ってくれたもの。
疑うなんて馬鹿げてる。
そんなこと、絶対に赦さない。





「……花白、」
「なに?」

呼ばわる声音が哀しげに聞こえた。
ねえ、僕を見て?
ちゃんと上手に笑えてる?

「……いや、なんでもない」

ぽす、と頭に手を置いて、そのまま髪をくしゃりと乱した。
大きな手のひらの温かさに、強張った笑みが解ける気がする。
氷砕が驚いたように目を見開いて、ふっと表情を和らげた。

「やっと笑ったな」

言って今度は柔な微笑みを。
思わず見惚れてしまうような、穏やかな表情を浮かべてみせる。
宵闇色の双眸に、自分の姿が映り込んでいるのが見えて。





それが、酷く嬉しくて。





「氷砕こそ」

肩を震わせ、吐息を零して。
突き上げるよな衝動のまま、喉を鳴らして笑い続けた。










兄とよく似ているという、氷砕が好きだと言った笑顔のままで。











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