行き違う、すれ違う。言葉も指も、視線すら。
そららが向かうは互いの隣。よく似ているけど違う人。
どちらが先に気付くだろうかと、見ている方が焦れてしまう。
─アリア─
誰が真っ先に気付いただろう。あ、と声が重なった。
淡い桜色の髪が、風に靡いてふわりと揺れる。
花白、と名を呼んでやれば、小走りに近付いてきて、
「……出掛けるの?」
と問いを投げた。
頷きひとつ返してやって、おまえも? と言葉を返す。
こくりと小さく頷いて、その目がスイと逸らされる。
焦がれる視線の向かう先、佇む相手は気付きもしない。
「……なあ氷砕、」
隣に立った連れを呼ぶ。
不意を突かれたからか、僅かに驚いた様子で。
「花白も連れてっていいだろ?」
「ああ、構わないが」
「だってさ。来るだろ? 花白」
うまい店知ってるんだ、なんて言いながら。
華奢な肩を抱き寄せて、早く行こうと手を引いた。
けれど、
「……ありがと。でも、」
「うん?」
やんわりと手を解いて、ちらちらと不安げにこちらを仰ぐ。
顔を覗き込むようにして、どうした? と首を傾げた。
口に出すのを躊躇いながらも、ぽつり、告げられる言葉。
「約束、してるから。……玄冬と」
「……そっか」
言われて脳裏に浮かぶのは、氷彩とよく似た相貌だった。
弟の名を聞いた途端、その表情が僅かに曇る。
愛しむ視線はそのままに、柔な笑みに影が差した。
花白はそれに気付かない。
言ってやった方が早いのだ。
好きなんだろ、と。伝えてしまえ、と。
けれど、それでは意味がない。
「約束があるんじゃ仕方ないな」
「……ごめん」
「いいって。また今度な」
俯いた花白の柔な髪を掻き乱す。
やめろよ! と噛み付くように、腕を払う手がいつになく弱かった。
それを見る氷砕の目は優しく和らいで、けれどどこか苦しそうで。
また今度ね、と俺たちに告げて、小走りに去って行く背中を見送った。
あんまり遅くなるんじゃないぞと、兄貴ぶった台詞を投げて。
見ていて解らないはずがない。
焦がれるような視線を向けて、やがては苦しげに逸らされる。
互いに互いを見ているはずなのに、目が合うことはほとんどない。
視線が絡めば言葉が生まれて、笑みが浮かんで、話が弾む。
そうしたら、手指が触れる機会だって出来るはずなのに。
こんな苦しい表情を、見ることだってないはずなのに。
「あーあ、どうしたもんかなァ」
「何がだ?」
「……なんでもない」
彩白? と訝しげに、名を呼ぶ友人を置いて、振り返りもせずに駆け出した。
今日は氷砕のオゴリだからな! と、苛立ち紛れの八つ当たり。
どちらが先に気付くだろう。自分の心に、相手の想いに。
早く自覚してくれないか、好きだと伝えてはもらえないか。
思っただけでは叶わないけれど。
「花白が幸せで、隣で氷砕が笑っていれば、それで俺は満足なのに」
そうしたら、その暁には、
二人を両手で抱き締めて、愛していると叫んでやるのに。
摘木さんへ。
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