昨日の夜から明け方にかけて、どっさり降って積もった雪。
庭に飛び出て遊ぶ子供のはしゃぐ声が聞こえてくる。
吹く風の冷たさに首を竦め、背中を丸めて手を擦り合わせた。
小さい頃なら喜んだだろうけど、この寒さには敵わない。
あったかい場所へ逃げ込もうと一枚の扉に手を掛けた。










─ゆきあそび─










温かいだろうと踏んでいたのに外と変わらぬ冷たい空気。
ねえ構ってと言い掛けた口から、ひゃあ! と頓狂な声が出る。
呆れたような目を向けたのは、この部屋の主たる桜色の子供。
しっかり着込んで厚着して、なにしてんだよ、と冷たい声。

大きく開けられた硝子の窓と燻る火のない静かな暖炉。
これでもか! ってくらいに着膨れているのに、それでも花白は震えてた。
白い肌をより白く染めて、頬や鼻先を真っ赤にしながら。
カチカチと歯の鳴る微かな音が口を閉じても聞こえてくる。

「なんでこの部屋こんなに寒いの?」

背中を丸め、首を竦めて、椅子に座った子供に問う。
言葉を発した口元だけが吐き出す呼気で白く濁った。
コツ、コツ、と歩み寄り、そっと傍らに膝をつく。
どうした? なんて問い掛けながら、ことんと首を傾げてみせた。

ゆらりゆらりと彷徨う視線を追い掛けるように身を寄せて。
ねえ、と強請るように声を掛けつつ、痩せた膝の上に腕を乗せた。
退路を断たれて諦めたのか、は、と小さな溜息ひとつ。
白く曇った吐息の名残は瞬く間もなく消えてしまう。





「……ちっこいのが、」
「ひよこ? あいつがどうかしたの?」

小さな末っ子の姿を浮かべ、今度は逆向きに首を傾ける。
すると花白は頭を振って、違う、と小さく否定を零した。

くれたから、と指差したのは窓辺に据えられた机の上。
そこにあるのは丸いお盆と、ちんまりとした小さな姿。
雪の体と木の実の眸、木の葉の耳を持つ雪うさぎ。
子供の手によるものらしいことは、歪な形からも見て取れる。

「溶けちゃったら可哀想だろ」
「可哀想って、ひよこが? うさぎが?」
「……どっちも」

拗ねたように口を尖らせ、ぷい、とそっぽを向くけれど。
くしゅんと小さなくしゃみの音に、やれやれと肩を竦めてみせた。





「なあ花白」
「……なんだよ」
「これからおにーちゃんと遊ばない?」

庭の雪でかまくら作ろ?
そう続けたら胡乱な目を向け、なんで、とつっけんどんな声。
嫌だと切り捨てられなかったことが少しだけ嬉しくて笑みを深めた。
途端に花白が身を強張らせたけど、まあ気のせいだってことにして。

「ここより外の方がこいつも住み心地いいと思うぜ? 仲間もいっぱい作ってやってさ、」
「……、……うん」

ことりと縦に振られた首と、零れて落ちた頷く声と。
ほら、と差し出した右の手に、おずおず重なる小さな手。
軽く握ればひくりと震えて、躊躇いながらも握り返してくれる。

普段はつれない態度だけれど、こういう時は振り払ったりしない。
優しいなぁと緩んだ頬は自然と笑みを形作った。





軽く引っ張り立たせてやって、さあ行こう! と扉を目指す。
けれど待ってと声を掛けられ、踏み出した足はぴたりと止まった。

「上着!」
「ん?」
「ちゃんと着ないとアンタ風邪ひくだろ!」

叱り付ける口調で言って、そのままぐいと俺の手を引く。
向かう先には俺の部屋があって、入るからねと短く断り手早く上着を引っ掴む。
ほら! とそれを押し付けられて、苦笑しながら受け取った。

ありがとう、と囁いたら、赤い頬に朱を走らせて。
いいから早くと急かす声音に再び小さな手を取った。











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