点々と散った赤い花と、しっとり汗ばむ白い肌。
それらを全部隠すみたいに頭からシーツにくるまる子供。
俺に背中を向けたまま、膝を抱えて座ってる。
あんなに可愛かったのに、と気付かれないよう溜息を吐いた。










―証―










寝転んだまま腕を伸ばしてシーツの端をちょい、と引く。
ぴくんと跳ねる背中に向かって努めて優しく問い掛けた。

「まだ拗ねてんの?」
「……別に、拗ねてなんかない」

掠れた音は赤く赤く、散りばめた花の色より赤い。
拗ねてないなら照れてるの? そう訊ねたら睨まれた。
腫れた瞼と朱を帯びた頬、きゅっと眦を吊り上げて。

再び顔を背ける寸前、細い肩を抱き寄せる。
驚きに漏れた小さな声、寝台に流れる桜の髪。
抗議に開かれる唇に、自らのそれを重ね塞いだ。

「っん……!」

鼻に掛かった苦しげな声。ちらりと覗いた目に涙。
名残惜しげに唇を離し、くすりと小さく笑みを零す。





「顔、真っ赤だぜ?」
「っ誰のせいだよ!」

悔しげに顔を歪めながら射殺さんばかりに俺を睨む。
つ、と流れる涙の雫に唇を寄せ舌で掬った。
過敏に跳ねる肌が熱い。

何もしないよと髪を梳いて、鼻先に軽く口吻けた。
大きく上下している胸に、耳を押し当て目を閉じる。

「……なに、してんの」
「んー、どきどき言ってるなーって思って」
「そんなの、あたりまえじゃないか」

そうだけどさ、と曖昧に返し、細い身体を抱き締める。
自分よりずっと高い体温と、駆け足の心音に目を細めた。





花白は何も言わないけれど、代わりにその手が俺に触れる。
髪を梳いたり額に触れたり、そっと頬を撫ぜたりして。
段々と恥ずかしくなったのか最後に鼻を摘まれた。

「寝るなら退いてよ。重い」
「ん、」

乗せていた頭を枕に落とし、花白の頭を抱き込むように。
何するんだよと尖った声に、ねえ聞こえる? と問いを返した。
怪訝な色の浮かんだ目が、じっとこちらを見上げてる。

「俺の音、ちゃんとある?」

重ねた問いには応えずに、花白は耳を押し当てた。
ひやりと冷たい感触と、柔らかな髪のくすぐったさと。





添えられた手に指で触れたら、きゅっと軽く握られた。
ぱちりと瞬くその隙に、ふんわり咲いた淡い笑み。

「聞こえてるよ。こんな風に」

言って手の甲をトントン叩く。
耳は胸元に押し当てたまま、指先で軽くトントンと。

そっか、と小さく言葉を返して細い身体を抱き締める。
その耳元に唇を寄せ「おやすみ」と甘く囁いた。











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