雨が降ったり陽が照ったり、天気がやたらと忙しい。
暑かったり寒かったりもして、着る物に困ることだってあった。
そろそろ危ないかなーとは思ってたけど。
おにーちゃんの勘、大当たり。










―解熱剤―










「花白、おにーちゃんだけど入ってもいい?」

コトコトと軽く扉を叩いて、返事も待たずに勝手に開ける。
ひょい、と中を覗き込んだら、顔を赤くした花白がいた。
もそもそと毛布から顔を出して、力のない目で睨んでくる。

「誰が、お兄ちゃん、だよ」

勝手に入るな、なんて言うけど掠れた声じゃ迫力がない。
けん、と小さく咳き込んで、息苦しいのか顔を顰める。
扉を閉めて歩み寄る。そっと額に手を押し当てた。

火傷するほどじゃあないけど、熱い。





「熱、下がんないな」
「……ん」

顎を引いて小さく頷く。
頬も耳も赤く火照って、目は開いてるけど焦点を結ばない。
ぼんやりとした緋色が揺れて、溜息と共に細められた。

「手、冷たくて、きもちいい……」
「そう?」

額から頬へ滑らせると、くすぐったそうに微かに笑う。
包み込むように頬に添えた手から、高い熱がじんわり沁みた。





「……ん?」

ふと目に入った小さな塊。
花白と並んで毛布にくるまってる。
つぶらな黒い目、ふわふわの毛並み。
にっこりと笑っているかのような、刺繍の糸で縫われた口元。

「ぬいぐるみ……?」
「……それ、ちっこいのが……」

ひとりじゃ寂しいだろうからって、置いていったんだ。

もごもご、ぼそぼそ、不明瞭な声。
気恥ずかしそうに目を逸らして。
優しい優しい顔をして、きゅ、とぬいぐるみを抱き締める。

「……なあ、花白」
「うん?」
「手、貸して?」





頬に添えた手を退けて、代わりに花白の手を握った。
少しでも熱が引くように。俺の体温で冷めるように。

「ぬいぐるみの代わり。もう少しここに居てもいいだろ?」

寂しくないように、ね?

小さくそっと囁けば、赤い顔を更に赤くして。
勝手にしろよと呟いて、きゅう、と握り返してくれる。





意地っ張りで素直じゃなくて、可愛くて大切な弟だから。
おにーちゃんは心配なんです。











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