ケン、と小さく咳き込むたびに、小柄な身体が大きく跳ねる。
苦しげな息遣い、熱を帯びて紅い頬。
代わってやれたらいいのに、なんて、叶いもしないことを思った。










─痛いのとんでけ─









抱き寄せた身体は熱かった。
驚いて見開かれた目は、ぼんやりと焦点を結ばない。
浅く速い呼吸の合間、吐き出す声が掠れてる。

「……な、に……?」
「ん。痛いの痛いの飛んでけ、って」
「……別に、どこも痛くないけど……」
「じゃあ、花白の風邪が早く良くなりますように」

馬鹿じゃないの。
そんな言葉が零される。
いいんだよ、馬鹿で。
なんて、口にしたら怒るだろうから言わないけれど。





「風邪うつったら、看病しろよな」
「絶対に嫌だ」
「えー」
「看病なんか、してやらない」

だから、早くここから出て行けよ。
扉を示してそう言うけれど、素直に聞いてやるはずないのに。
ちょっとだけ、背に回した腕から力を抜いた。

「本当に出てったら、寂しくて泣いちゃう癖に?」

ほんの少し、からかってやるつもりだった。
だのに、くしゃりと表情が歪んで。





「泣くわけないだろ……!」





そんな、哀しそうな顔で言われたら。
今にも泣いてしまいそうな、震える声で言われたら。

俯いてしまった桜色を、そっと引き寄せる。
子供をあやすみたいにして、小さな背中をぽんぽんと叩いた。
膝に落ちる水滴は、気付かなかったことにして。










強がっているけど、泣き虫なんだ。
誰よりも孤独を恐れる子供。可愛くて、大切で、愛しい弟を、










置いてなんて、行けるわけないだろ……?











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