はたはたと翻る薄い布地が寄せては返す波のよう。
風を孕み、光を抱いて、前髪をふわりと微かに揺らす。
寝台に寝転んだ姿勢のままで、ついと伸ばした腕の先。
波打つカーテンを掴もうとして、けれども空を切るだけだった。
─波状浸蝕─
茹だる暑さにやる気を削がれ、くたりと寝そべり溜息ひとつ。
汗ばんだ肌はべたべたとして何とも言えず気持ちが悪い。
いっそ水浴びでもすれば、と。思いはすれども動けなかった。
動きたくなかったと言うのが正解か。
「……」
暑いと口に出してしまえば余計に暑さを感じるのだと。
そう言っていたのは幼馴染か、それとも別の誰かだったか。
記憶を辿ろうとするのだけれど頭が上手く回ってくれない。
考えることすら億劫で、もうやめた、と投げ出した。
開け放した窓。温い風。
風がカーテンを揺らす度、光の波が打ち寄せる。
戯れに伸ばした手の先で、今度こそ布地の端を掴んだ。
と、
「ここにいたのか!」
バタンッと扉が開かれて、耳慣れた声が突き刺さる。
顔だけをそちらへころりと向けると、きつい蒼色に睨まれた。
「あれ、タイチョー。どうかした?」
「どうかした、だと?」
相手は眉間に皺を刻み、カツカツとこちらに歩み寄る。
ああ怒ってる、どうしよう。なんて。
楽しんでいる自分がおかしかった。
けれど、
「タイチョ?」
何事か言わんと開いた口から、言葉が紡がれることはなく。
す、と蒼い目を細め、手指が俺の額に首に。
血の通う肌であるはずなのに何だかひやりと冷たくて。
くすぐったさに身を捩ったら、はあ、と小さな溜息が。
「熱いな」
「夏だからね」
「違う。おまえが、だ」
体長はどうだ。頭痛はしないか。
水を持って来るから大人しくしていろ。
次から次へと紡がれる言葉に、え、ああ、ウンと頷いて。
離れて行く手を目で追いながら、タイチョ、と小さく相手を呼んだ。
どうやら聞こえていなかったようで、見慣れた背中が視界から消える。
行っちゃった、とぼんやり思い、熱を持った顔を枕に埋めた。
今更のように痛む頭と体のだるさに溜息ひとつ。
気付かなければ楽だったのにと自嘲の笑みに顔を歪めた。
いつの間に指を離れていたのか光の波が行ったり来たり。
ちらちらと光を顔に零して、その眩さに目を閉じた。
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