なんだかちょっと息苦しくて、うう、と小さな呻き声。
寝返りを打とうと身動ぐけれど、なぜだか体が動かなかった。
あれ、と瞼を持ち上げて、視界いっぱいに桜色。
何度も何度も目を瞬かせ、はあ、と重たい溜息を吐いた。
─つぎ目が覚めたら─
腰に回された二本の腕と、お腹の上に乗せられた頭。
呼吸の度に上下する背中に手を置き、起きろよ、と軽く揺さぶった。
んん、と鼻から漏れた声。小さな頭がころんと動く。
眠そうな目が彷徨って、僕の顔を見、ぴたと止まった。
「おはよう」
「え。あ、おはよ……じゃなくて!」
ふにゃんと笑って言うものだから、思わず返してしまったけれど。
どうしてここにいるんだよ、とか、いつの間に入ってきたんだよ、とか。
訊きたいことは頭にあるのに上手く言葉が出てこない。
はくはくと口を動かしていたら、相手に先を越されてしまった。
「ねえ、何して遊ぼっか」
「へ?」
「だからね、今日は何して遊ぶ?」
今にも閉じそうな寝惚け眼と、呂律の回らぬ幼い口調。
まだ眠いんだろと尋ねても、眠くなんてないよと意地を張って。
ぎゅう、と寝間着を握り締め、いやいやをするみたいに首を振った。
頭がお腹に乗せられているから、そんな動きがくすぐったい。
わかったわかったと言葉を連ねて、揺れる頭をくしゃりと撫ぜた。
「もうちょっと寝てから考えろよ」
「……眠くなんて、ないったら」
「僕が眠いの。もうちょっと寝かせて」
少しだけ持ち上げていた頭を落とし、溜息混じりにそう投げた。
すると相手は少し黙って、それからふわりと笑みを浮かべる。
しょうがないなぁと言いながら、寝間着の胸元に頬を寄せた。
ほんとうに、ちょっとだけだからね。
ちゃんと起きなきゃダメなんだからね。
何度も何度も繰り返し、釘を刺すように言うけれど。
その声が少しずつ不明瞭になり、遂には小さな寝息に変わる。
息遣いに合わせて上下する背中に、起こさないよう手のひらを乗せた。
少しだけ高い体温が、触れた部分からじわりと沁みて。
どこからか湧き出る眠気に誘われ、両目を瞼の下へと隠した。
先に起きるのはどっちだろうなんて、そんなことを考えながら。
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