草っ原に寝転んだまま、両の視界を瞼で覆った。
じりじりと照り付ける強い日差しが薄い皮膚越しにも眩しい。
真っ赤に染められた視界の端が、誰かの足音と同時に翳る。
薄目を開ければ陽射しに射抜かれ、眉間にぎゅっと皺が寄った。










─影に滲む─










焼けるぞと零された静かな声に、そうだねと気のない言葉を返す。
眩しさに再び瞼を下ろし、相手を視界から追い出した。
さく、と下草を踏む音がして、耳元でその足が止まる。
微かな衣擦れが鼓膜を震わせ、相手がしゃがんだことを知った。

「あてられたのか」
「そうじゃないけど」
「なら起きろ。仕事だ」

ほら、と短く低い声。
腕でも差し伸べられているのか、鼻先で僅かに空気が揺れた。
うっすらと開けた目の中に相手の手指が映り込む。
ああ、あたりだ、と内心笑い、もう少しだけと言葉を紡いだ。





「日焼けで泣くのはおまえだぞ」
「誰が泣くかよ」
「おまえ以外に誰がいる」

ガキの頃のことを忘れたのかと、呆れたような声で言う。
帽子も被らず川遊びをして、顔も手足も真っ赤にして。
ヒリヒリと続く痛みに呻いて寝込んでいた日を思い出す。
日焼けしやすい体質なんだよね、なんて言ったら睨まれた。

「……おい、」
「んー?」
「おい、起きろ」

無理矢理肩を掴まれて、そのままぐいと起こされて。
乱暴だなァと言い掛けた口からは、息を呑む音だけが零れた。
首元に触れた手のひらの、その冷たさに驚いたから。





「な、に」
「体温が高い。倒れるぞ」
「平気だよ、元気だし」

へらりと笑って言ったけど、眉間の皺は消えぬまま。
額を軽くぺちりと叩いて、さあ立てとばかりに腕を引く。
ふらつきながらも立ち上がり、待って待ってと言うけれど、

「おまえの平気は信用ならん」

こちらをちらとも見ようとせずに、そんな言葉を口にして。
言い返そうかと口を開いて、けれどもすぐに噤んでしまった。
少しだけ背の高い相手の影が俺をすっぽり包んでる。
暑さも眩しさも感じることなく、涼しい城内へと押し込まれた。

酷いなァなんて口を尖らせ、けれどちょっとだけ嬉しくて。
思わず口端に浮かべた笑みに、相手も小さく笑った気がした。











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