空間転移の気配を感じて、あれ、と小首を傾げてしまった。
花白はさっき出掛けたばかりだ。空間転移で熊サン家まで。
忘れ物でもしたのかな、と様子をじっと窺ってたら、現れたのは全くの別人。
うっかり目と目が合ってしまっては知らぬ振りも通せなかった。










─不意打ち─










こっちはこっちで驚いたけど、相手もそれなりに驚いたらしい。
ぱちぱちと何度も瞬いて、なんだアンタかと一言漏らす。
なんだとはなんだと言い掛けて、けれども言葉を飲み込んだ。
まともに話したら疲れるだけだと長くはない経験上知っていたから。

「熊サンてタイミング最悪だよね」
「は?」
「花白、ついさっき出てったばっか」

空間転移で、熊サン家まで。
ちょうど入れ違いになっちゃったんだねぇ。
揶揄する口調でそう言えば相手はふむと考え込んで。
帰れ帰れと念じていたのに、ならば待つかとのたまった。





「追っ掛けないの?」
「下手をすればまた入れ違うからな」
「戻ってくるとは限らないじゃん」
「その時はその時だ」

だから少し付き合え、と。
こちらの都合などまるで無視して、そんなことを言ってくれる。
あからさまな溜息を吐いてみせても、悩み事か、と心配顔。
悩みの種が何を言うかと零し掛けてまた飲み込んだ。

「……熊サンはさ、」
「何だ」

落ちた沈黙が気まずくて、無理矢理声を掛けてみたけど。
何を話すか決めないままの見切り発車で言葉に詰まる。
けれど見付けた意地悪な問いを、えいとばかりに投げてみた。





「花白のこと、好き?」
「ああ」

即答か、と思ったけれど、やっぱり口には出さぬまま。
ふぅんそっかと生返事をして、それじゃあさ、と続きを紡ぐ。

「俺のこと、好き?」

すると相手は口を噤んで俺の顔をじっと見た。
丸く瞠られたその目の中に意地悪く笑う自分が映る。
ねえどうなのと答えを強請ると、僅かに表情を歪めてみせた。

「嫌いなやつとこうして話すほど、好き者ではないつもりだが」
「……は、」
「そういうことだ」

言うなりふいと視線を逸らし、ああ戻ったか、と小さく呟く。
空間転移の気配を受けて、またな、と声が投げられた。
こっちはそれどころじゃないって言うのに、熊サンばっかり余裕ぶってて。
気に入らないと思いつつ、熱っぽい頬を持て余した。











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