鳥になるってどんなカンジなの?
好奇心に目をきらきらさせて、救世主はことりと首を傾げた。
翼を広げた姿のままで、私は何度も瞬くばかり。
ねえどうなのと重ねて問われ、開いた嘴をようやく閉じた。
─ひなたぼっこ─
日当たりの良い窓辺に陣取り、のんびりと翼を日光に当てる。
ただそれだけでぬくぬくと温かくなって、眠気にとろりと目を閉じた。
ら、
「……なんで俺の部屋なのさ」
どこか不満気な声がして、翼の先をちょいと摘まれる。
ぱちりと両目を見開く先に、じっとりと睨む緋色の目。
首の後ろの羽を撫ぜられ、そわっと背筋が粟立った。
「ちょっ、逆撫でるのはやめてくれ!」
「変なカンジ?」
「背筋がこう、ぞわっとするんだよ!」
ばたばたと翼を動かして、どうにかこうにか彼から逃れる。
つまらなそうに尖った口が、再びにっこりと笑みを浮かべた。
「鳥になるってどんなカンジなの?」
「うん?」
「空を飛んだり、風に乗ったり。どんな気分なのかなぁって」
今度はちゃんと上から下へ、羽の流れに沿って撫ぜる。
太陽の光で温められた羽の下にも潜る指。
こそばゆさを覚え身を震わせると相手はころころと喉を鳴らした。
「翼と腕って、やっぱり違う?」
「そう、だねぇ……あまり意識したことはないが」
言われてみれば違うかもしれないな。
そう返したらふぅんと頷き、じゃあ尻尾は? と続けて投げる。
尻尾、しっぽ? と首を傾げて、ああ尾羽かと思い至った。
「尻尾じゃなくて尾羽と言ってくれたまえよ」
「大して変わらないじゃない」
「何を言うんだい! 大違いだよ!」
ばさっと翼を広げて言えば、相手はけらけらと軽やかに笑った。
と、不意に笑みを引っ込めて、半ば目を伏せ私を睨む。
なんだい? なんて首を傾げたら、そうじゃなかった、と呟いて。
「ねえ、なんで俺の部屋なの」
最初に投げられた質問に、ああ、と私はひとつ頷く。
広げた翼をはたはたと畳み、嘴で軽く整えて。
物言いたげな相手へ向けて、にっこりと笑み投げてやる。
もっとも鳥の姿では大して伝わらないけれど。
「羽干しをしようにも外は寒くてね」
「だったら他に行けばいいでしょ」
「いやいや、ここでなければ駄目なんだよ」
なんでさ、と。
頬杖をついて尋ねる相手に、くるくると喉の奥で笑う。
翼を大きくゆったりと広げて、再び背中に光を受けた。
ぽかぽかぬくぬく眠気に誘われ両目がとろりと閉じそうになるけれど。
「君がいるからに決まっているじゃないか」
そう囁いたら目を丸くして、驚きに言葉を失ったから。
このまま眠ってしまうには少々勿体ない気がして。
滅多に見られないその表情を、目に焼き付けておくことにした。
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