珍しく早く目が覚めたから、ひとつの扉をそうっと潜る。
抜き足差し足忍び足、近付く寝台に小柄な身体。
毛布の端をきゅうっと握って、包まるみたいに横を向いてた。
─目覚めの朝─
寝台の脇に膝をつき、幼い寝顔を覗き込む。
可愛いなぁと思いながら、やわらかそうな頬をつついた。
「……ん、」
鼻に掛かった小さな声、眉間に寄せられた薄い皺。
むう、と口をへの字に曲げて、ふいと顔を背けてしまう。
ころんと小さく寝返りを打ち、花白は再び夢の中。
顔が見えないのが寂しくて、けれど起こすのは躊躇われる。
どうしようかなと考えた末に、そろりそろりと腕を伸ばした。
ほんの少しだけ寝癖のついた桜の髪にそうっと触れる。
くるくると指を絡めたり、軽く唇を押し当ててみたり。
起きるかな、起きないかな、と。そんなことを思いながら。
寝台の端っこに腰掛けながら飽きもせずに繰り返す。
ずれた毛布を直してやって、頬にかかる髪を払ってやって。
そんなことを繰り返していれば、起こしてしまうのは当然だ。
寝惚けた声と震える瞼、長い睫毛がふるふると。
ゆっくり開いた緋色のには、まだまだ眠気の色が濃い。
ふらりふらりと彷徨う視線が俺の顔を捉えて止まる。
ぱし、と一度瞬いて、それから大きく見開いた。
ぽっかり開いた小さな口が、はくはくと開閉を繰り返す。
なんでいるのとでも言いたげな目で、けれど花白は黙ったままだ。
その目に掛かりそうな前髪を払って、柔らかな桜をくしゃりと撫ぜる。
驚いたのか首を竦めて、それから上目に俺を見た。
「おはよ?」
「……、……おはよ」
寝起きの掠れた声が返る。
どこか不満気な顔をしながらも、俺の手を払い除けたりはしない。
けれど少々邪魔らしく、どけて、と小さな声が言う。
どうしようかなぁと笑ってみせたら無理矢理ぐいと押し退けられた。
「冷たいなぁ」
「っ、言ってろよ」
もう起きる、と言いながら、もそもそと毛布から這い出して。
起き上がったのを見計らって、ぎゅうっと両腕で抱き締めた。
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