寒い寒いと背を丸め、手足を炬燵に潜らせた。
足の先にぶつかったのは、随分と温まった先客の爪先で。
迷惑そうに顔を顰めて、冷たいな、と彼は言った。
─猫と炬燵と蜜柑の香─
ほら、と鼻先に転がされたのは橙色した甘い蜜柑。
だらしなくテーブルに顎を乗せて、アリガト、なんて囁き返す。
けれど両手は炬燵の下。とても出てきてくれそうにない。
スンスンと鼻を小さく鳴らして柑橘の匂いを吸い込んだ。
それからアレ? と小首を傾げる。
だって相手は苦手なはずだから。
「蜜柑なんていつ買ったの?」
「この前だ。おまえが帰ってすぐ」
「へえ、なんで?」
こてん、と今度は逆の方向に、もう一度首を傾げて問う。
すると相手は溜息を吐き、渋々といった様子で口を開いた。
「炬燵には蜜柑と猫が常識だと、そう言ったのはおまえだろう」
「そんなこと言ったっけ」
「ああ、言った」
だから食え、と籠ごと押し付け、フンと鼻を鳴らしてみせる。
自分では食べないものなのに、まさか買ってきてくれるなんて。
嬉しいけれど複雑で、ありがと、と小さな声。
「あれ。じゃあ猫は?」
「おまえがいるから必要ない」
気まぐれに懐っこいからな、と言うが早いか立ち上がる。
茶を淹れる、なんて言いながら、台所の方へ行ってしまった。
待ってと伸ばした腕は届かず、寒さに再び炬燵の中へ。
じんわり温い布団の下で、組んでは解いて、解いては組んで。
「……お茶なんかより、そこにいて欲しいんだけどなァ」
テーブルの上に顎を乗せたまま、顔をかくかく揺らしてぼやく。
足先にあるはずの温もりは、まだまだ帰ってきてくれそうにない。
とりあえず彼が戻ったら「にゃあ」と一声鳴くとしよう。
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