冷たい北風、ぴゅうと吹く木枯らし。
日に日に日差しは弱くなって、今日なんて雲に隠れてる。
背中を丸め、首を竦め、鼻の頭と頬は赤い。
寒い寒いとぼやいていたら隣から深い溜息が聞こえた。










―桜紅葉―










手袋、耳当て、ぐるぐる襟巻き。
防寒対策はばっちりなのに寒くてふるりと身を震わせる。
唯一肌の露出している顔の辺りがピリピリした。

「信っじらんない、なにその薄着」
「おまえが無駄に厚着なだけだ」
「上着一枚とか有り得ないし。見てて寒いよ」
「じゃあ見るな」

さっきからずっとこの繰り返し。
寒い寒いと言う俺と、適当にあしらうタイチョーと。
吐き出す息は一様に白く、呼吸の度に視界を染めた。





ざくざくと落ち葉を踏み締めながら二人で歩む並木道。
木の葉はすっかり色を変えて、次々はらりと落ちてくる。
赤に黄色いに色付く様はとてもとても綺麗だけれど。

「っあー寒い!」

無駄だと知りつつその場足踏み。
足の下から聞こえてくるのは乾いた木の葉が砕ける音で。
ちらりと横目で隣を見たら、どうした? と問いを投げてくる。
言葉と共に吐き出す息が白く凝って消えていった。





「ね、タイチョー」
「なんだ」
「右手貸して」

訝しむ相手の手首を掴み、脱いだ手袋を無理矢理嵌める。
覆うものを失った自分の右手を彼の左の手指に絡めた。

「手袋貸してあげるから、代わりにタイチョーの左手借りるね」

驚いたように瞠られた目が、優しい笑みに細められる。
冷たい冷たいタイチョーの手と、ぬくぬくとした俺の手と。
繋いだ手と手の真ん中で、互いの熱がじわりと混ざった。











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