彩の城まで遊びに行ったら出迎えてくれたのは白梟だった。
はなしろなら庭にいますよ、と柔らかな声で告げられる。
お茶を用意しておきますから、二人で戻っていらっしゃい。
その微笑みに背を押され、おれは庭へと駆け出した。
―眠れる森―
彩城の庭園はとにかく広い。まるで森の中にいるみたいだ。
きょろきょろと辺りを見回しながら、はなしろ、と名前を呼ぶけれど。
求める応えも姿も見えず、足を止めずに先へと進んだ。
さくさくと、かさこそと、歩みに合わせて音がする。
積もり積もった大量の落ち葉が踏みしだかれてたてる音。
冬のにおいのする風が吹き、はらりと枯葉を枝から落とす。
くねくね曲がった一本道。
歩けど歩けどはなしろはいない。
城へ戻っているのだろうかと引き返しかけた足を止めた。
名前を、呼ばれた気がしたから。
「……はなしろ?」
茂みに分け入り彼の名を呼ぶ。
けれど応えは返らずに、がさがさと葉擦れの音ばかり。
手の甲にいくつもの擦り傷を作り、やはり戻ろうと思った時。
ふと足元に目を落とし、ひゅっと息を飲み込んだ。
降り積もる朽ち葉に半ば埋もれた、ぽったりと白く浮いて見えるそれ。
緩やかに曲げられた五本の指が、まるでおれを手招くようで。
つつ、と視線で辿った先には長い銀糸と涼しい寝顔。
その傍らで丸くなるのは探し求めた春の色。
落ち葉の布団に身を埋めた、幸せそうなその寝顔。
「……、……」
両手を腰に、溜息ひとつ。
起こすべきか、そっとしておこうか。
悩んだ後に伸ばした腕で、ひとまず頬の落ち葉を払った。
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