朝、目を覚ますと、世界は音に満ちていた。
それは風の囁きではなく、軽やかな小鳥の囀りでもない。
意識しなければ聴き漏らしてしまいそうな、けれど絶え間ない音の連なり。
うまく働かない頭を持ち上げ、ぼんやりと両の目を開ける。
夜は明けたのに薄暗く、どことなく呼吸がし辛かった。
なんでだろうと小首を傾げ、目だけで見遣った窓の外。
灰色の雲から零れる雫に、あめ、と小さな呟きが零れた。
─遅く来た朝は─
ことり、扉を叩く音。
のろのろとそちらへ顔を向けると、玄冬の青い目とかちあった。
ぱちり瞬く青色が、ほんの少しだけ細められる。
ふわ、と笑みを湛え浮かべて、寝台の脇に膝をついた。
「起きたか?」
「……うん」
こっくりと頷く僕の頭に、大きな手のひらがポンと乗る。
髪を撫ぜられる感触が好きで、気恥しくて、小さく笑った。
「朝飯、冷めるぞ」
「あ、うん。すぐ行く」
もそもそと寝台から這い出しながら、待っててね、なんて言葉を投げる。
そうしたら彼は目を細めて、僕の髪の毛をちょいと摘んだ。
摘んでは離し、また摘む。何度も何度も、繰り返し。
「……なに?」
「ああ、いや」
首を傾げて問いを投げたら、くしゃりと髪を乱された。
ゆっくりと立ち上がる彼の顔には、未だ柔らかな笑みがある。
けれどいつもと何かが違って、それが何なのか分からない。
「鏡、見てみろ」
笑い出したいのを堪えるような、不自然に震える声がして。
どうしたの? と問うより早く、彼は扉の向こう側。
「……なんなの、いったい」
裸足のままで床へと降りて、洗面台へとぺたぺた歩く。
ひょいと覗いた鏡の中には眠そうな顔が映っていた。
くるくるふわふわうねりにうねった、素晴らしいまでの寝癖を乗せて。
「……、……」
かあ、と頬が熱くなる。
洗面台の縁に手を掛けて、ずるずるその場にしゃがみこんだ。
鼻をくすぐる朝御飯の匂いに、くう、とお腹の虫が鳴く。
それが更に追い打ちを掛けて、ほんの少しだけ泣きそうになった。
ああ、なんて朝だろう!
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