大好きだよと囁いたら、大嫌いだと睨まれた。
きれいなきれいな紅い目に泣きそうな色が滲んで揺れる。
抱き込めてしまう小さな身体、僅かに身じろぎ胸を押す手。
力ないその細腕は、今にもへし折れてしまいそうだ。










―証明―










特に何をするでもなく、ぼんやりと空を見上げる子供。
気配を殺して近付いて、小さな背中を抱き締めた。
驚いたのか悲鳴を呑んで、離れろ馬鹿! と暴れ出す。
可愛い抵抗を難なく閉じ込め、その耳元に囁いた。

「好きだよ、花白」

途端にぴたりと動きが止まる。
俺を映した紅玉に、ありありと浮かぶ動揺の色。
ふい、と顔を背け俯き、その表情は窺えない。





「僕は、嫌い」

ぽつりと零れた微かな反応。
その華奢な肩に顎を乗せ、ふぅんと鼻から声を出した。
花白の顔を覗き見るよに僅かに首を傾げてみせる。

「どうして?」
「……別に。嫌いだから嫌いなだけ」

ぽそぽそ、ぽそぽそ、紡がれる。
細い細い糸の声。

震える肩に額を押し付け、ごめんね、と言葉を投げた。
何度も何度も謝りながら抱き締める手は緩めない。





怯えたような色の視線にずっと前から気付いてはいた。
知らぬ振りを通し続けて何食わぬ顔をしていたけれど。

花白は俺を恐れてる。
熊サンを殺して続いた世界に、また生まれ落ちた救世主だから。
花白が熊サンを手に掛けた、消すことの叶わぬ証明だから。

「……ごめんね……」

戸惑う気配、身じろぐ身体。
離して、と控え目な訴えに首を二三度横に振る。
可愛い弟、可哀想な子供。
こんなにこんなに好きなのに、苦しめるしか出来ないなんて。





何度目とも知れぬ謝罪の音が舌の先からほろりと落ちる。
もういいよ、なんて優しい言葉は聞き取る端から掻き消した。











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