ひとつふたつと星を数えて、その輝きに手を伸ばした。
自分の腕では短すぎて、とても届きはしないけど。
流れる星の話を聞いてから、ずっとずっと探しているけど、
まだ見たことは一度もないんだ。










─瞬─










星の話を聞くのが好きだった。
手が届くことはないけれど、
夜空を見上げればいつもそこにあったから。
それに、

「ねえ、あの星は?」
「あれはね、」

本を開いて解らないことでも、教えてくれる人がいる。
時々遊びに来てくれる、きれいなきれいな優しい人。





旅人の星、夜明けの星。満ちては欠ける月。
季節によって変わる、羊飼いたちの描いた星座。
あれもこれもと欲張って、夜更かしをすることだってあった。

「玄冬は何でも知りたがるんだね」

くすくすと肩を震わせて、いつだったかあの人はそう言った。

「……だめ?」
「ううん。勉強熱心だなぁって」

えらいえらい、と言いながら、髪を何度も撫でてくれる。
僕よりずっと大きいけど、白くて細いきれいな指で。





「前にね、」
「うん?」
「人が死んだら星になるって」

色んな本に書いてあった。
星になって、空から見守ってくれるんだって。

「それ、ほんとう?」

見上げた先に、丸く見開かれた目。
それから少し考えて、玄冬はどう思う? って。
この人はいつも、答えをすぐにはくれない。

「……よく、わかんない」
「そっか」

ぽん、と頭に僅かな重み。
乗せられた手のひらが、ゆっくりと髪を撫でた。





「でも、」
「ん?」
「ほんとうなら、寂しくないね」

ずっと見ていてくれるなら、寂しくなんてないよね。
そうでしょう? と尋ねたら、きれいな笑顔で頷いてくれた。
片方の腕で頬杖ついて、そうだなぁ、なんて考える仕草。

「生きてる人が覚えている限り、星になって見守ってくれるんだって」

俺はそう聞いたことがあるよ。
そう言って、また笑う。
優しい優しい、柔らかな表情で。





いつもこうやって、まずは僕に考えさせる。
考えて、考えて、わからなくても叱ったりしない。
これからいっぱい知っていけばいいんだよって、
笑ってくれる。

「じゃあ、もし忘れちゃったら?」

疑問を投げれば、必ず何かしらの言葉をくれるから。
だから、この人が大好きで。
大好きだから、





「……消えちゃう、かもね」





笑うように細められた目。 だけど、どこか悲しそうで。
こんな顔、してほしくなかった。
こんな表情を、させるつもりはなかったのに。

「玄冬……?」

俯いた僕の顔を覗き込むように、姿勢を低く低くして。
ぽつりと落ちたひとしずくに、驚いたように目を瞠って。
はっと息を呑む気配。
頬の涙を拭う手が、ほんの少しだけ震えてる。

「ごめん。俺、何かしたかな……?」

何も、悪くないのに。
謝ってほしいわけじゃないのに。
何度も何度も首を横に振って、違うんだよ、って伝えたかった。
言葉は喉に痞えてしまって、とても出てきてくれそうにない。

悲しい顔を抱き込むみたいに、首にそっと腕を回した。
玄冬? と少し困った声。

謝らなきゃいけないのは僕の方なのに。
あなたにそんな顔をさせたのは、何も知らない僕でしょう?。










星に願って叶うなら、この人が悲しまないように。
悲しませることのないように。
それだけが、僕の願い。











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