鮮やかな赤に魅せられた。
その持ち主はあまりに幼く、同時に無垢で、
不安と好奇心に両の眸を煌かせていた。

大地に燃える花の色を、美しいと、守りたいと思った。
それが課せられた使命なのだと、そう漠然と感じながら。
紅玉にも似たその輝きが、曇る日が来ようとは思いもせずに。










─ pigeon blood ─










足音にびくりと身を震わせて、恐る恐る背後を窺う。
探る気配が見知ったものだと知れれば、
ようやく身体から力を抜いた。
それでも、どこか強張った面持ちで。

「やあ、花白」

声を掛ければ、また身が跳ねる。
奥歯を噛み締めでもしたのだろう、
頬のあたりに緊張が走った。

「元気そうだね」

伸ばした指先、拒むことはせずに。
ほんの僅かに身を硬くして、それでも小さな頷きひとつ。





白い白い頬に触れて、顎から耳へ、耳から髪へ。
そろりと指を這わせ伝わせ、柔な春色をそっと梳いた。
温かな色味とは裏腹に、その感触は冷たく硬い。

「随分と冷えてしまっているね。風邪をひくよ」
「……灰名だって」

不意に手首を掴まれる。
小さな小さな、白い手のひら。

「ほら、こんなに冷たい」

指先をそっと握られた。
じわりと染み入る確かな熱。
ひたと見据える眸は赤く、咎めるような色を孕んで。
幼い頃と同じように、そっと体温を分けてくれる。

「いつものことじゃないか」
「……開き直るなよ」

両手を取って、きゅっと握って。
流れ込む熱がいとおしい。





「君が冷えてしまうよ」

言って、やんわりと手を取り戻す。
指先が温かい。

拗ねた表情、尖る視線。
追い掛ける腕がピタリと止まる。
躊躇うように手指が震え、やがて緩く拳を作った。

「……もう、戻るから」

半ば伏せた眼、沈む声。
眸の色を暗くしたのは、長い睫毛の影ではなくて。

「ちゃんと温かくして眠るんだよ」

今夜は冷え込むようだからね。
返事を待たずに肩を抱き寄せ、軽く二三度背中を叩いた。
慌てたように腕を突っ張り、こちらを仰ぐ頬が赤い。










その両の眼から翳りが消えて、そっと安堵の溜息を零す。
鮮やかに、艶やかに、煌々と輝くその眸。
どうかこれ以上曇らないように、と。
祈ることしか、叶わない。











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