カーテンの隙から射し込む光で、朧な意識が浮上する。
ゆるりと何度か瞬いて、隣に横たわる熱に気付いた。
そっと窺う、密やかな寝息。併せて上下する広い背中。

幼馴染の遠い子孫が、すぐ隣ですやすやと眠っている。
なんだか変な感じだ。










─春眠─










思えば、こうしてじっと観察するのは初めてで。
相手が寝ているのをいいことに、ギリギリまで、近付いた。
息を潜めて、寝台に手をついて。
一箇所にだけ掛かった重みに、寝台が小さく悲鳴を上げた。

まじまじと顔を見詰める。
幼馴染に似ているとはいえ、少し違う、その顔を。

起きている時よりも、どこか幼く見える表情。
鈍い銀色の髪は銀朱よりも短く整えられていて。
顔立ちこそ似ているけれど、より若く見える。

(実際、彼は幼馴染より三つ四つ、若いはずで)





「……睫毛、長いんだ……」

瞼を縁取るそれに触れたら、さすがに起きてしまうだろうな。
伸ばしかけた指を握り、くす、と吐息だけで笑った。

見れば見るほど似ているようで、知れば知るほど似ていない。
なのに何故、年嵩の救世主は重ねたりするのだろう。
こんなにも二人は似ていないのに。
違う、のに。





ぱち、と開かれる瞼。覗く蒼色、どこか蕩けて。
かちり、ぶつかる視線。確かな光が、浮かび宿った。

「っ、」

咄嗟に身を退き、距離を取ろうとしたけれど、それは叶わなかった。
伸ばされた腕が頬を撫ぜて、髪の先をそっと摘んで。
ふ、と浮かんだ笑み。細められた蒼。

「……寝癖、ついてるぞ」

くしゃくしゃと髪を乱す手を、掴んで退けて、でも離さずに。

「そっちこそ」





寝ぼけ眼がとろりと閉じて、ひとまわり大きな手に力が篭る。
引かれ、転がり、抱き寄せられて、慌てて「起きなよ」と声を上げたら。

「今日は、非番だ」

眠そうな、くぐもった声。
目は閉ざされたまま、もぐもぐと言葉だけが紡がれる。

「……そうなの……?」

知らなかった。
どうして前もって教えてくれなかったの?
言いたいことは山ほどあるけど、どれも口には出来ず仕舞いで。
頭の後ろに置かれた手が、髪を梳くようにやんわり動いた。

「ああ。だから、もう少し」

もう少し、と言い残して。
沈黙が、落ちる。

「……朝、弱いんだ……?」

力の抜けた表情と、すやすやと安らかな寝息。
問い掛けに似た台詞を聞いてか、むぅ、と零れる微かな音。
返事なのか寝言なのか、それは定かではないけれど。





動けない、な。





背に、後頭部に回された腕。
押し当てた耳を、鼓膜を震わす、ことことと僅かに速い拍動。
抱き枕でもあるまいし、と内心こっそり毒づいたけど。
あたたかな眠気に誘われて、欠伸をひとつ零して。










朝日の射し込む寝台の上、密やかに繰り返される寝息が、ふたつ。











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