輝く太陽、眩い日差し。
上昇を続ける気温と体温。
ああまずい、と思った矢先、視界は呆気なく暗転した。
―暑気あたり―
呼ぶ声がどこか遠く聞こえる。
薄く開いた視界の先に、見慣れた桜の髪が揺れた。
心配そうな色を浮かべて、感情に揺らぐ一対の緋色。
こちらの様子を覗き込む顔は不安で今にも泣きそうだった。
「玄冬、大丈夫?」
「……ああ」
手の甲を額に押し当てて、僅かばかりの涼を求める。
が、そんなことで得られる訳がなく、肌の生温さに顔を顰めた。
「……暑い、な」
げんなりと零した俺を余所に、花白はホッと息を吐く。
力の抜けた笑みを向け、このくらいじゃまだ序の口だ、と。
多少は暑さを感じているのか、服の襟元を軽く摘み、ぱたぱたと風を送っていた。
「これからもっと暑くなるよ」
君には気の毒だけど、と花白は言う。
告げられた内容に絶句した。
「……そう、なのか?」
掠れた問いにあっさり頷かれ、頭痛と目眩に頭を垂れる。
今も充分に暑いのに、更に気温が上がると言うのか。
考えるだけで茹だりそうだ。
「……大丈夫?」
不安げな問いに小さく頷き、支えられながら身を起こす。
そこでようやく、木陰に運ばれたのだと気付いた。
花白ひとりの力では大変だったろうに。
「……悪かった」
「え? なにが?」
きょとんと紅い目を瞠り、白い首を傾げてみせる。
動きにつられて流れる髪が、さら、と涼しげな音をたてた。
「驚かせただろう? 迷惑もかけた」
「気にしてないよ、そんなこと」
肩を竦めて、困ったような笑みを浮かべる。
伸ばされた腕、袖を摘む指。
何だ? と視線で問い掛ければ、くすくすと肩を震わせた。
「服、買いに行こうね。夏物をさ」
長袖ばっかじゃ倒れちゃうよ。
割合に厚い布地に触れて、溜息のように花白は言う。
こちらを見遣る視線に滲んだ窺う色に頷きを返した。
「案内は、頼む」
「……当然でしょ?」
玄冬ひとりを街に出したら迷子になるに決まってるもの。
反論出来ない内容だけに、居心地悪さに目が泳ぐ。
逸らした視線、差し伸べられる腕。
立てるかと問われ二三度瞬く。
頷きを返し、手を重ねた。
温かいはずの相手の熱が、どこかひやりと心地良い。
眩い日差しと火照った肌に、低い体温がじんわり沁みた。
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