ぱち、と瞬き、目を見張る。
投げられた言葉を反芻し、かみ砕こうと躍起になった。
目の前の男は今何と言った?
─祝詞─
視線を避けるように背けられた顔。
窺えるのは横面だけだ。
が、狼狽え泳ぐ蒼い視線や仄かに染まった頬と耳は、隠しようもなく晒されて。
それが聞き間違いなどではないと、痛いほどに証明していた。
「……すまないが、もう一度言ってくれるか?」
噛み砕けない。
飲み込むことが、出来ない。
容易く胃の腑に収めてしまうには、惜しいような気さえした。
なるべく柔に頼んだつもりが、相手は更に朱を上らせて、叩きつけるように言葉を投げた。
「っ二度は言わん! 帰れ!」
「何処へだ」
ここは、俺の部屋なんだが。
返せば相手は言葉に詰まり、酸欠に喘ぐ魚の如く口を忙しなく動かした。
開けては閉じ、閉じては開け。
幾度となく繰り返し、やがてがくりと肩を落とす。
「……三度目は、ないと思えよ」
地を這う低いその声音に、解った、と頷きひとつを返した。
大袈裟なまでの溜息を吐き、意を決したように口を開く。
苛立ちを含んだ、真っ直ぐな声。
さくりと刺さる、心地よい音。
最初から最後まで、その肌は色付いたままだった。
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