あとどれだけの命を散らせば、想いは昇華されるのだろう。
満たされるのはほんの束の間、溺れる熱もいつかは冷める。
知っていながら伸ばした腕は、いつの日の朝も空っぽだった。










─種子─










引き抜かれる熱に息を詰め、小さな呻きを吐き出した。
弛緩した身体はシーツに沈み、荒い呼吸を繰り返す。
気遣うように伸ばされた腕が汗で貼り付く髪を払った。

その手を取って頬に押し当て、黙したままで淡く笑む。
瞬く度に流れる涙が視界をじわりと滲ませた。

「また、泣かせてしまったな」

目尻の涙をそうっと拭う、節くれ立った温かな指。
くすぐったさに身を竦め、ふふ、と零れた笑い声。
気にしないでと言ったとしても、彼は案じてくれるのだろう。
嬉しい、しあわせ、なのに苦しい。
想いはいつまでも凝ったまま、待てど暮らせど実らない。





「銀朱のこども、欲しいなぁ」
「……は?」
「きっとかわいいよ。男の子でも、女の子でも」

ころ、と小さく寝返りを打ち、仰向けになって目を閉じた。
どれだけ肌を重ねても、どれだけ言葉を紡いでも。
欲しい欲しいと願ったところで、この身体では叶わない。

俺に子宮があったなら、銀朱の子供を産めただろうか。
彼に良く似た子が生まれたら壊れるくらいに愛してあげるのに。
種は種のまま芽吹くことなく、この腹の中で死んでゆく。
知らず知らず殺してしまう。





ねえ、いつか、と紡いだ声は、ほんの少し掠れていた。
彼の方へと顔を向け、瞼をゆるりと持ち上げる。
暗がりに浮かぶその表情は、なんだか怒っているみたいで。

「いつか子供が生まれたら、ひとりでいいから俺にちょうだい?」

可愛らしく見えるように、ことん、と小さく首を傾げて。
口角を上げ、目を細め、薄っすらと笑みを繕った。

「それを最後の我儘にするから」

ね、おねがい。と続くはずの言葉は呼吸もろとも紡げず仕舞い。
背に回された腕の感触と、不意の抱擁に戸惑って。
上擦る声で名を呼べば、煩いとばっさり切り捨てられた。





「生憎、そんな予定はない」
「……ん」
「だから、そんなことを言うな」
「……、……うん」

ごめんね、なんて囁いて、相手の背中に腕を回して。
下腹から溢れる生温いそれに、ほんの少しだけ顔を顰めた。
流れていってしまったそれは、彼の子供になるはずのもの。
この身体では、俺の腹では、芽吹くことの出来ないもの。

あとどれだけの命を奪えば、抱えた想いは実を結ぶのだろう。











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