眩しい。思わず顔の前に腕を翳す。
僅かな日陰に安堵の溜息、そっと零して目を開けた。
翳した腕を囲むみたいに、きらきらと光が差してくる。
降り注ぐ雨にも似たその光から、春の終わる気配がした。
濡れた土の匂い。芽吹き始めた緑の香り。次々開く花の囁き。
春の終わる、音がする。
─影─
舞い落ちた囀り、軽やかな羽音。
視線を投げた先に手のひらに乗るくらいの小さな鳥。
ちょこちょこ跳ねて、立ち止まる。首を傾げて羽繕い。
と、小鳥がぱっと飛び立った。風を叩く羽音を残して。
代わりに響く足音。影が、落ちる。
「何をしてる」
「ひなたぼっこ」
目を閉じて、腕を瞼に押し付けた。
濃くなる闇と、遠ざかる光。
軽い圧迫感が気持ちいい。
「仕事はどうした」
「んー、休憩?」
へらりと口元に笑みを浮かべた。
前触れもなく腕を掴まれて、少々手荒く引き起こされる。
急な動きに付いて行けず、鈍い頭痛に襲われた。
「……あれ。叱らないの?」
普段なら、雷のひとつやふたつや三つ四つ、落ちていてもおかしくない。
相手は小さく溜息を吐き、蒼の眸をこっちに向けた。
滲み出るのは怒りではなく、どこか気遣わしげな色。
「叱りつけたいのは山々だがな」
また、溜息。
伸ばされる腕、額に触れる手。
ごつごつしていて、ひんやり冷たい。
「体調が良くないのだろう? 寝るなら部屋へ戻れ、月白」
ひく、と瞼が小さく震えた。
額に押し当てられた手が、厭わしかったわけじゃない。
ただ、痛かった。
身体のどこか奥深い部分が、じわりと熱を持ったみたいに。
名前を呼ばれた。それだけなのに。
「……ありがとね、タイチョ」
立たせて、と伸ばした腕。
ほんの数瞬躊躇って、掴まれる。
強く、けれど痛くないくらいの力加減で。
名前を呼ばれた。
その瞬間に、幼馴染みの影を見る。
いるはずないって解ってるのに。
似ているけれど、違うのに。
銀朱は銀朱だ。銀閃じゃない。
解っていたのに、呼べなかった。
ふらり傾いだ身体を支えてくれる、不器用な腕がいつになく優しい。
優しくて、優し過ぎて、泣きたかった。
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