幼馴染を起こしに行くと、珍しくその姿がなかった。
空の寝台はまだ温く、出て行って間がないことを知る。
まったくどこへ消えたのだろうと重い溜息を吐いた矢先。
みゃあと小さな鳴き声を聞き、はたと思考が停止した。
─こねこねこのこ─
猫、だった。仔猫がいた。
白い華奢な手に抱かれて、きょとりと小首を傾げている。
その手の持ち主は目を瞠り、あれ来てたのと平素の声で。
こちらの心境など知らぬ様子で、変な顔、とけたけた笑った。
「……おまえ、それ、どうしたんだ……」
「え。ああ、この子? 庭にいたから連れてきたんだけど」
「違うそっちじゃない。耳だ、耳」
おまえの、と頭上を指し示せば、きょと、と赤い目を丸くして。
一拍二拍の間を空けた後、ああコレね、と上向いた。
白く柔らかな毛で覆われた三角形の獣耳。
ひょこりと動いているあたり、感覚はちゃんとあるらしい。
まさかまさかと視線を下げれば、服の裾からもちらりと白が。
細く長くしなやかな、獣の尻尾がそこにある。
ゆらりゆらりとそれを揺らして、月白はことりと首を傾げた。
「ね、似合う?」
「……、……な、に……」
「そんな真面目に考えんなよ。恥ずかしいだろ」
むっとしながら口を尖らせ、ついでにぱたりと尾を振って。
指にじゃれつく仔猫をあやし、なー、などと言って同意を求めた。
もちろん答えが返るはずもなく、仔猫は喉を鳴らすばかり。
その首後ろを撫でながら、月白は再び俺を見た。
「吃驚した?」
「……あたりまえだ」
「だよね。俺も吃驚したもん」
起きたらこんなの生えててさ。感覚もあるし、動かせちゃうし。
とりあえず猫語が話せるかどうか、この子で試してみたのだと言う。
真っ先に考えることがそれか、だとか、もっと他の心配しろ、だとか。
思いこそすれ言葉にならず、悩んだ挙句にこう投げた。
「……で、結果は?」
「さっぱりダメ。みゃあとかにゃあしか言わないよ、この子」
ぱりぱりと爪を立てる仔猫を見ながら、なんでだろうねと不思議そうに。
なんでだろうと首を捻りたいのはこちらの方だと心底思う。
猫の耳だの尻尾だのがそうそう生えてくるものだろうか。
動じる素振りの見えない相手に問いを投げる気にもなれない。
しかし、である。
目の前でぴくぴくと動く耳。指の先でちょいと触れる。
驚いたようにこちらを見る目に少々の居心地悪さを覚えた。
す、と逸らした両の視線。指先に残った柔な感触。
早鐘を打つ心臓に煩い黙れと罵声を浴びせて。
「……似合わなくはない、な……」
ぽつ、と零したその一言に、月白は目を丸くして。
ぱちりと一度瞬いた後、山猫のように赤色を細める。
何も知らない無邪気な仔猫が、愛らしい声でみゃあ、と鳴いた。
リクエスト内容(意訳)
「未来救に猫耳 狼狽えつつもドキドキする隊長」
軽津さまへ
一覧
| 目録
| 戻