今日は玄冬が来る日だからと、早くから起きてみたけれど。
昨日の夜から決めていた服に袖を通して鏡をちらり。
兄は似合うと言ってくれたけど不安はやっぱり残るもので。
やや余裕のある胸元に目を落とし、はあ、と悩ましげに溜息を吐いた。
─蜂蜜ミルクの憂鬱─
ホットミルクに蜂蜜を落として、火傷をしないようちびちびと飲む。
最近牛乳ばっかりだねとすぐ上の兄は笑うけど。
こっちは真剣なんだからねと睨み付けるとまた笑った。
「そんなに身長伸ばしたいの?」
「……それもあるけど、」
「けど? けど、何?」
ねぇ何? と問いを重ねられ、しつこいよ、と言うけれど。
そんなことで諦めるような相手ではないと知っている。
「別に、アンタには関係ないだろ」
「そう言うなって。俺で良ければ相談に乗るぜ?」
おにーちゃんは妹想いだからさ、と。
そう言う相手をチラと見遣って、次いでカップへ視線を落とした。
「……玄冬が……」
「え、なに。熊サンに何かされたの?」
「そんな訳ないだろ! ただ、その」
ぽそぽそと紡いだ僕の言葉に相手は赤い目を丸くして。
真っ赤になって俯いた僕に、大丈夫だって、と月白は言う。
「熊サンは胸の大きさなんて気にしないよ」
むしろ何で花白がそんなこと知ってるの?
そう尋ねられてドキリとし、慌てて視線を逸らしたけれど。
顔を覗き込むようにこっちを見る目に、渋々口を開いて一言。
「……だって、」
「だって?」
「……玄冬のベッドの下に、雑誌が……」
言った途端に月白が、あちゃー、とでも言いたげに頭を抱える。
熊サン隠すの下手だなぁ、なんて。呆れ果てた顔をして。
「ねぇ、どうしたらいいと思う……?」
「どうしたらって、そうだなぁ」
牛乳はここんとこ毎日飲んでるみたいだし。
あとはマッサージするとか、揉んでみるとか。
そういうのしか浮かばないなぁ。
困った風に言うものだから、それ以上何も聞けなくて。
そう、と小さく返したら、ごめんな、と僕の頭を撫でる。
「でもさ、花白。大丈夫だと思うぜ?」
「……何でそんな風に言えるのさ」
問えば相手はくすりと笑って、ちらと背後の扉を見遣った。
「ね、そうでしょう? 熊サン」
「……え、」
嘘でしょう? なんて過ぎった思いは、開かれた扉に打ち砕かれて。
その向こう側に立っていたのはバツの悪そうな顔をした玄冬で。
ガタンと思わず席を立ち、なんで、と声を漏らしたら。
会う約束をしていたからなと時計を見上げてそう返された。
「……きいてたの……?」
「……ああ、」
気まずそうに頷かれ、ざあっと顔から血の気が引いていく。
まさか聞かれているなんて思わなかった。
「……どこから……?」
「……、……その……胸の、」
「っ、玄冬の馬鹿ッ!」
蹴倒した椅子の派手な音と、二人分の驚きの視線。
制止の声は一人分。
それは玄冬のものだったけど立ち止まる気にはなれなくて。
乱暴に閉めた扉に凭れ、真っ赤な頬に手を当てた。
「とりあえず熊サン、ちょっと二人で話そっか」
背中で聞いた月白の声は、どこか低く地を這うようで。
怒ってるのかな、なんて思ったけれど、知らない! と両手で耳を塞いだ。
リクエスト内容(意訳)
「玄冬の理想の女性に近付こうと頑張る花白」
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