最後の書類を届け終え、執務室の扉に手を掛ける。
室内に足を踏み入れた途端、人の気配に歩みを止めた。
誰だと低く問いを投げても応じ答える声はない。
周囲に隈なく注意を払い、一歩また一歩と足を進めて。
やがて至った仮眠室。一息に開いた扉の向こう。
びくりと震えた小さな影の、その姿を見、絶句した。
─夜の来訪者─
桜の髪の隙から覗く白い毛に覆われた三角の耳。
居心地悪げに揺れる尻尾は服の裾からちらちらと。
どうしたんだと投げた問いには、ただただ首を振るばかり。
その心情を代弁するかのように三角耳が伏せられた。
コツコツと寝台に歩み寄り、そっと隣に腰を下ろす。
びくりと小さな体が震え、上目にちらとこちらを見た。
そろりと伸ばした指先で三角の耳につと触れる。
驚いたのかくすぐったいのか、花白は小さく息を呑んだ。
触れた感触は温かく柔らかく、それこそ獣の耳のようで。
形からして猫だろうかと、そう思いながら軽く撫ぜた。
次いで視線は下へ落ち、ちらちら揺れる尻尾へ向かう。
いいか、と小さく断りを入れ、細く白い尾に手を伸ばした。
感覚はちゃんとあるらしく、時折ぴくりと小さく震えて。
触れられている間中、花白は顔を俯けていた。
急にこんな状況になったら、誰だって戸惑うことだろう。
どうしたら元に戻れるだろうと思考がぐるりと渦巻いた。
と、
不意にぐいと胸を押され、寝台に転がり天井を仰ぐ。
起き上がろうと浮かせた肩を白い華奢な手が押し返した。
思わず見上げたその先に、僅か俯く花白の顔。
怒っているのか泣きそうなのか、紅い目に涙を滲ませて。
物言いたげに口を開き、けれどもそのまま閉ざしてしまう。
「花白、」
「……」
「大丈夫だ、大丈夫だから」
幼い子供に言い聞かせるように何度も何度も繰り返す。
上体を起こし視線を合わせて白い頬に手を添えた。
くすぐったそうに目を細め、擦り寄るような動きを見せて。
落ち着きを取り戻した花白の背に腕を回してぽんぽんと撫ぜた。
ねえ、と小さく呼ぶ声に、そっと身を離し花白を見る。
じっとこちらを見詰める視線。紅い目に滲んだ高い熱。
伸び上がるような口吻けを受け、くらりと軽い目眩を覚えた。
仄かに赤く染まった目元と不安げに結ばれた唇と。
寝かせられたままふるふると震える白く柔らかな三角の耳。
どれもこれもがいとおしく、ひとつひとつに唇を寄せた。
「ぁ、っん……」
思わず漏れた甘い声。はっと息を呑む気配。
羞恥に頬を染め上げて、声を殺そうと唇を噛む。
嗜めるように口吻けを落とし、離れ際にちろと舌で舐めた。
僅かに感じた血のにおいに「噛むなよ」と小さく釘を刺して。
こくりと頷く動きを受けて、傷付いた唇に指を這わせた。
肌蹴た衣服、覗く肌。触れる度にひくと震える。
それに合わせて跳ねる尻尾をやんわり掴まえ手の中に。
びくと大きく跳ねた身体と、高く響いた甘い声。
神経が多く通っているのか尻尾は殊更敏感らしい。
感触を確かめるように付根を撫ぜて、するりと手の中を滑らせた。
その感覚に耐えるかのように花白はきつく目を閉じる。
傍近くにある甘い呼気にじわじわと理性が侵される気がした。
腰から下へと手を這わせ、指先をそっと体内に埋め込む。
執拗なまでに解したそこに自らの熱を宛がった。
向き合う形で膝立ちになった花白の身体がぎしりと強張る。
怖いかと問えば僅かに躊躇い、少しだけ、と言葉を返して。
けれど気丈にも大丈夫と言い、そろりと自ら腰を落とした。
徐々に飲み込まれる感覚に気付かれないよう息を零す。
苦痛に震える耳と尻尾が視界の隅でちらちらと揺れた。
首に縋る手の力は強く、爪を立てられ痛みが走る。
しかしそれすら気にならぬほど背を駆ける快楽に酔わされた。
軽く突き上げ揺さぶるだけでも花白は甘い嬌声を上げて。
その間隔が狭まるにつれ、限界が近いことを知る。
びりびりと痺れる意識が弾け、一際高い声が響いた。
白く長い尾がびくびくと跳ね、やがてぱたりとシーツに落ちる。
苦しげな呼吸に時折混じる甘く小さな掠れ声。
視界にあるのは桜の髪と、力なく震える耳だけで。
ぐったりと凭れるその身を支え、大丈夫かと投げた問い。
気だるげな目がこちらへ向けられ、緩慢な動作でぱちと瞬く。
答えの代わりに紡がれたのは他でもないこの俺の名だった。
リクエスト内容(意訳)
「猫耳花白と銀朱 えろ」
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