揺りかごの中で丸まって、くうくうと眠る小さないきもの。
大きい玄冬が作ってくれた薄桃色のウサギの人形。
その片耳を咥えたままで、ころんと小さく寝返りを打った。

ふくふくと丸い頬っぺたを、指の先でそうっとつつく。
びっくりするくらいやわらかくて、思わず指を引っ込めた。










─咲初桜─










お昼寝から覚めてぐずる花白を、銀朱がひょいと抱き上げた。
慣れた手付きで揺らしてあやして、小さな泣き声がぴたりと止まる。
大きいのの指が涙を拭いて、くすぐるみたいに頬っぺたを撫でた。

背の高い二人に連れて行かれて、ぼくのところから花白が見えない。
ぴょんぴょん跳ねてみたけれど、見えるのはふわふわの髪の毛だけで。
銀朱銀朱と裾を引いたら、少し屈んで見せてくれた。

ぱちぱちと瞬く丸い赤色。きゅっと握られたちっちゃい手。
相変わらずウサギさんを抱っこして、ぼくの方をじっと見た。





「ぼくも抱っこしたい!」

ねえ、いいでしょう? と銀朱を見れば、困ったような顔をして。
そうだなと考えるより先に、大きいのが一言ダメだと言った。

「なんでだめなの!」
「危ないだろ。落っことしたらどうするんだよ」
「落とさないもん!」

二人ばっかりずるいと言えば、おまえは小さいからダメだと言われて。
小さくないと噛み付けば、まだヒヨコだろと返される。
悔しくて悔しくて泣きそうになった時、銀朱がもう止せと呆れた風に。
それからそっと膝をついて、ほら、と花白をぼくの方へ。

「重いからな、気を付けるんだぞ」

銀朱の言葉を飲み込んで、大きいのの方をちらと見る。
大きいのはフンと鼻を鳴らして、仕方ないなと小さく笑った。





そっと伸ばした二本の腕、手と指に感じた花白の体温。
思っていたよりずっと重くて、ふにゃふにゃとやわらかい小さな体。
背中とお尻を支える腕が、ぷるぷると震えてしまうけれど。

すぐ目の前に花白がいて、ぼくの方に手を伸ばしてくれる。
鼻に頬っぺにぺたぺたと、ちっちゃな手のひらが触れて離れて。
そうっと鼻を摺り寄せたら、きゃあ、と笑う声が弾けた。

「重いだろ?」
「うん。でも、かわいい」

重さに震えるぼくの手の隣に大きいのの手が添えられて。
花白を取り上げようとするんじゃなくて、ぼくが抱っこするのを手伝ってくれる。

「おまえだって昔はこんな風だったんだよ」
「大きいのも?」
「そ。ついでにタイチョーも」

ね、と銀朱の方を見て、大きいのはけらけら笑ってる。
ついでとは何だ! と言ってはいるけど、銀朱も怒ってはいないみたい。





とろとろと眠そうな花白を、大きいのと一緒に揺りかごへ。
そうっと寝かせて離れようとしたら、ちっちゃな手に袖を掴まれた。
びっくりして、でも嬉しくて、ここにいるよとその手を握る。

もう少し花白が大きくなったら、今度は手を引いてお散歩に行こう。
きれいなお花の咲く庭や、きれいな小川へ歩いていこう。
もし転んだらおんぶしてあげる。疲れたら二人でお昼寝しようね。

そんなことを考えてたら、いつの間にかぼくまで夢の中。
花白の手を離さないからと、ふたり揃って寝台へ。
一緒に運ぶの大変だったんだからな、なんて。
大きいのが笑いながらそう言った。










リクエスト内容(意訳)
「ちびちろのお兄ちゃんをしたがるこはなちゃん」

彩燕さまへ

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