つまらない、と口を尖らせ、彩のお城の廊下を歩く。
くろとと一緒なら楽しいのにと誰もいない右側の壁を見た。
誰もいない。いるはずもない。
くろとはお城に来ていないから。

白梟はお仕事だし、銀朱は演習に出掛けてしまった。
小さい僕も、大きいのも、忙しいみたいで遊んでくれない。
つまらない、と溜息吐いて、ふと中庭の方を見て。
くろととそっくりの色を見付けて、あれ、と両目を丸くした。










─それはきっとはじまりの─










ねえ! とその子を呼び止めたら、ひゃあ、と小さな悲鳴があがる。
こっちがびっくりするくらい、びくりと体を跳ねさせて。
慌てて僕の方を振り向くその子は濃い青の目を丸くした。

「……はな、しろ……?」
「うん、僕。ねえ、今ひとり?」

じっと青色を見ながら訊くと、こくんとひとつ頷いて。
あの人は今お仕事だからと少し寂しそうに目を伏せる。
涙はないけど泣いてるみたいな、泣いてしまいそうな顔と声。
僕より少しだけ年上なのに、もっと小さな子供みたいだ。

「じゃあさ、僕と遊ばない?」
「、え?」
「大きいののお仕事が終わるまで、僕と遊んで待ってよう?」

ね、いいでしょう? いっしょにあそぼ?
そう問い掛けたらぱちりと瞬き、それから視線をゆらゆらさせる。
どうしたのかなと思ったら、彼は上目に僕を見た。





「いい、の?」

躊躇いがちに、おずおずと。小さく小さく紡がれる声。
なにが? と小首を傾げて返せば、また青色がゆらりと揺れた。

「僕と一緒に、遊んでくれるの……?」

悲しそうに、寂しそうに、恥ずかしそうに、俯いて。
白くて細い手と指が、服の裾をきゅうっと握った。
指の先が白くなって、よく見ると小さく震えてる。

そんなに強く力を込めたら彼の指はきっと折れてしまう。
そう思ったら悲しくなって、その手を両手できゅっと握った。
弾かれるように上げられた顔と、驚きに丸くなった青。
その青色を真っ直ぐ見詰めて、手を握る力を少しだけ強く。

「僕は君と遊びたいよ」
「、」
「ねえ、君は?」

僕と遊ぶの、嫌?
そんな風に続けたら、ふるふると首を横に振る。
動きに合わせて流れる髪が、さらさらと小さな音をたてた。





「僕も、いっしょに遊びたい。だから、」

だから、ねえ。
いっしょにあそぼ?

頷き返せばふんわりと、嬉しそうに彼は笑う。
男の子なのにきれいだなって、そう思うような、やわらかな顔。
返事を聞いて、その顔を見たら、なんだかくすぐったくなって。
何して遊ぶか決めていないのに、じゃあ行こう! と駆け出した。

待って! と慌てた声がするけど、聞こえないよと知らんぷり。
繋いでいる手が解けそうになって、慌てて握り直したけれど。
きゅうっと指に力を込めたら、同じように返してくれる。
それが嬉しくて、くすぐったくて、頬っぺたが熱くなった気がした。










「救はる・こくこは前提 こははる」

ツキネさんへ

一覧 | 目録 |